光溢れる王都アストラル。
王の膝元となるこの街は聖と魔が混在する不思議な街だった。
朝焼けがこの国一美しいとされる都で今日も人々は活動をする。
朝早くなので朝市も催され街はにわかに活気を取り戻していた。
その王都中央近郊に歴史ある大きな建物がある。
四大貴族シュバルツ家。
かつて多くの勇者や英雄を輩出したかの有名な名家である。
先は王家の血すじとも繋がって歴史上では王になったものも存在するという家系だ。

 その大きな家の軒先で凛々しい声をあげて訓練に挑むものがいた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「やぁーーーー」
藁で出来た人形を相手に少年は竹刀で必死に練習していた。

 それもこれも全ては________来る時のために。

少年の家ではある伝統行事があった。
その伝統行事は過去幾ばくかあった危機を見事乗り越えていった英雄たちの試練であり、シュバルツ家のものたちも行ったとされる貴重な試練だった。
「てやぁーーーー」
先ほどから熱心に竹刀を振り続けていた少年もいずれはその試練を乗り越えねばならないことを知っている。
その試練とは一年間、放浪の旅をして魔を宿すものを出来るだけ倒してくるというものだった。
試されるときまであと僅か。
だからこそ余計に練習に熱が入っていた。

 少年の綺麗な金髪の短い髪は汗を纏って竹刀を振るたびに汗が舞い散った。
さらに少年の瞳には蒼い宝石のような透き通る眼球があった。
それは見るものを引き込むような正常な光が宿っていた。
少年の体は齢14にしては随分と身長が高く、筋肉もつき細いながらも凛々しい体形でそれもこれも日々の訓練の賜物と言っても過言ではないだろう。

「キーリ様。キーリお坊ちゃま。お客様がおいでになられておられます。今お茶をお持ちいたしますのでこちらの椅子に座ってお待ち下さい」
「レイリさん。ありがとう」
庭園に広げられた簡易テーブルと椅子の上に香りのよいお茶が運ばれる。
それは季節に見合ったものだったり、少年のお気に入りの茶葉だったりと様々だ。
いつも心づくしてもてなしてくれるレイリに少年は申し訳ない気持ちと感謝の念でいっぱいだったが、感謝の旨を口にするとレイリはメイドですからと控えめに笑うのであった。

「まったく、よくできたメイドだな。俺んちに欲しいくらいだ」
「ばーか、俺んちのメイドだって。ロイド、ひさしぶりだな。」
にこやかに交わされる挨拶に少しだけ毒を混ぜて、それがこの館の主の少年、キーリとその友達であるロイドの日常会話だった。

「で、なんだよ。来るって分かってたらもっと歓迎のしようもあったのに」
練習を邪魔されて少々不機嫌目にキーリは言う。
「悪かったな。ただ、お前と会うのもこれでしばらく先になるかもしれないし、先日お前が森で怪我してるところを拾った奴どうしたかなーって思って。さ」
ロイドは今時の淡白な若者に見えて意外と面倒見が良い。
そこは友人として誇れるべきところなのだが、キーリとしては普段の性格が元であまりこの友人を誇りたくない。
若いから許されるべきその無鉄砲さでキーリはいつでも行動しているのに対し、この友人はやけに冷静に大人の目線で行動するのだ。
プラスマイナスの役割で相性としてはとてもよいのだろうと思うけれど、喧嘩などした日には仲直りがなかなか大変だからなぁと思い出してクスリと笑う。
 森とは先日旅立つ前のレクリエーションとして行った狩猟のことだ。
キーリもロイドもそれなりにはしゃいで楽しんで帰っていった。
「この前のな。まってろ……いや、着いてくるか? どうせロイドだしな。うちの小屋は知っているだろう?」
「ああ。じゃ、遠慮なくお邪魔させてもらおう」
短い返答でキーリとロイドは同じ場所を目指した。

「キュウ。キャウ」
小屋に近づくにつれ、何かのイキモノの声は大きくなってくる。
「おいおい。連れてきたの以外でまた増えてないか」
「気のせいだよ」
ニコニコ笑うキーリは小屋を前にして足を止める。
「ニャーーーー」
「キャハ」
「グギーーー」
それぞれ声は違うもののそれらはとても愛らしかった。

「おい、キーリ。モンスター好きもいい加減にしろよ」
そう、キーリは英雄を目指しながらもモンスター愛好家だった。
 それも「猫」という種類の。

「フフ。かんわぃい」
モンスターの柔らかな肉球にタッチしながらもキーリの顔は弛緩ぎみだ。
「やめろ。キモイ顔になってるぞ。キーリ」
それをみて思いっきりひくロイド。
「だって、かわいいだろ。この顔」
確かに愛玩用モンスターの猫はかわいい。
「今、かわいいって思っただろ。そうだろう。この子は猫と虎の混血種なんだ」
「ふうむ。珍しいな……」
「でしょ、他にも貴重なガルパーニ産の猫だろ。メリウールの滝に住むとされるツバサの生えた猫だろ。くしゃっとした顔のモモニー猫だろ」
「ああ。もう猫の説明はもういい。問題のあいつはどこやった?」
 ロイドがいうあいつとは今紹介している猫とは違うモンスターだ。
キーリとロイドがモンスター狩りに出かけたときに偶然拾った珍しいモンスターなのだ。
「あ。名前決めたんだよ。名前聞いても教えてもらえなかったから。
ヴァイオレットっていってね。もうむさんこかわいいんだ」
「そうか。で、逢いたいんだが」
「了解。ヴァイはこっちだよ。着いてきて」
 ニコニコ説明するキーリはロイドからみてはっきりいってウザイの一言につきるが仮にも友人を名乗ってやっているので昔からのこの友人のウザさには耐性がついているためちょこっとイラっとしたぐらいだ。

「ヴァイ。こんにちわ」
 バスケットの中にいたのは子猫ほどの小さな一匹のブルードラゴンだった。
怪我をしているのかツバサには包帯がまかれ大事に安置されている。
「おい。何だこの差は。猫達は檻の中で竜はバスケットって普通逆だろ。
ドラゴンといえば火とか吐くだろう? 危険だ。今すぐ檻に入れて来い!」
バスケットを持って今にも投げ捨てようとするロイドに竜はきゅりゅぅううと小さく鳴いてびくびくした。
「そんなことないよ。ヴァイとはお話してモノを壊したりしないって約束したもの」
キーリはパッとロイドから竜を取り戻すことになんとか成功しほっと息をついた。
「なんだと。そいつ喋れるのか。だとすると相当高位の竜か」
「そうみたいだね。ブルードラゴンって世界に50体しかいない超貴重種らしいし」
ニマニマと笑うキーリの目は収集家の目らしくキランと輝いている。
「何か喋らせてみろよ。旨くすると森の自分の住処を喋るかもしれないし。
そしたら母竜に手当てさせればいい」
「うーん。そうだね。じゃぁ、ヴァイオレット聞いてたでしょ。
住処どこかお兄さんに教えてくれないかな?」
「キュウウウウウ」
「何々? キュゥウウウウ? んーとこの辞書には載ってないなぁ」
「まて。喋れるなら名前も聞けたはずだろ。て、お前が手にしてるものは何だ」
「ん? 簡単竜語ガイドブック。これで竜のキモチになって会話しようvol.4だけど」
「お前……それ会話と違うじゃねぇか」
熱いロイドの視線にバスケットの中の竜は居心地が悪そうだ。
「会話ってのはなぁ、もっと心と心を通わせて通じ合う為のもんだ」
「「そーだよ。お兄さん、キーリにもっと言ってあげて」」
「そーだなキーリみたいに押し付けじゃあ、いつまで経ってもコイツのココロを理解しようなんて無理だね。」
「「そのとーり。お兄さんカッコイイ」」
「いや、照れるな。しかしキーリの世話を焼いて数年ここんとこ本当に大変で……ん? て俺一体何としゃべって……」
 下から声はしてたからもしやと思いロイドはバスケットの中の竜をみた。

「「にゃ〜ぁ」」
 何食わぬ顔して竜は鳴いた。
とたん爆撃がおきた。たくさん飛び散って泡となっている唾はキーリのものだろう。
「あははははっはははは。ロイド、竜にまでその態度とは恐れ入るよ。
まったく冗談に決まっているだろう? だからヴァイは最初から喋れる竜なんだよ」
「冗談だと。貴様、竜のくせに俺を謀ったな」
「竜だからこその芸当ですよ。お兄さん」
「そーだよ。ヴァイはいゐこですよ。ただ俺と一緒に考えたロイドを嵌める大作戦に
見事ロイドがひっかかってくれて嬉しいよ。本当に」
くはくはとキーリはまだ笑っている。
「むむむ。これはなんだか悔しいな」
「笑いすぎているマスターに火でも吹きかけましょうか?」
「ぜひお願いする」
「ちょ、ちょっとまって。ヴァイ。マスターはこの俺だよ。何ロイドにしっぽふってんの。
いつの間に友好条約むすんだんだ」
不穏な雰囲気を感じ取ったのかキーリもさっきまでの笑いを抑えて立ち上がった。

「あらためて紹介する、ブルードラゴンのヴァイオレットだ。
そんでもって何時の間にか俺の下に付くことになった」
「よろしく。お兄さん」
「ああ。ロイドだ。キーリとは小さい頃からの突っ込み役だ」
「うん。なんかそんなかんじだね。ロイド」
一瞬、異種族なのにキーリを見てロイドを振り返ったとき哀れむような表情をみせたヴァイオレットに親近感を覚えたロイドだった。

「それでどうしてヴァイはあの森の中にいたんだ? 母竜は?」
 言葉が話せると知ってずっと疑問に思っていたことをロイドは話し出した。
「そうそう。たしか迷子になったって言ってたよね?」
横槍をいれてきたのはキーリだ。
「迷子か。ならば、母竜が捜しているに違いない」
ならば、近いうちに森へ探索せねばなとロイドとキーリ、二人で話し合っていた時だった。
蚊のなくような小さな声がバスケットからきこえた。
「迷子じゃないやい」
「ん?」
「……確かに森には迷っていたけれど……僕は迷子じゃなくて、ひとり立ちして迷っていたところを他のモンスターに襲われただけだよ」

「ひとり立ち!!」

キーリはシュピピンと耳が縦になったかのような反応をすぐみせた。
「してみてどうだった?」
何せ、数週間後には自分も旅立たねばならない。
そんな身としては是非とも先駆者の声を聞いておかなければならないだろう。
「最悪だよ。強いモンスターに出会って急に怪我して木から落ちてマスターらに拾われた。
それで僕のひとり立ちはおしまい」
ちゃんちゃんと幕引きの声を挙げる幼い竜になーんだと軽く声を上げたのはキーリだった。
「なら、俺と一緒にちゃんとひとり立ちしよう。
ちょうど旅立たねばいけない時がもうすぐ来るんだ。
だから、ソレまでに怪我を治して一緒に旅立とう?」
ニコっと笑うキーリという少年にヴァイオレットは呆然と眩しいものを見つけたような目でキーリを見返していた。
「マスターが旅立つなら。僕も一緒に行かなきゃだもんね。
……わかった。ついていくよ」
「そうだな。キーリだけじゃ俺も不安だったんだ。ヴァイも一緒だと安心するぜ。
ま。所詮は一年間なんだけどな」
「そうだね。たった一年で世界を回れるだけ回ろうって思っているんだ。
世界はいったいどんなものかを知るための旅を」

 キーリは遠くを見つめるような目で語る。
世界の草花の息吹を。
世界中の空の色の変化を。
世界中のイキモノたちの存在を。
この目で確かめて歩いていくんだ。とその時はキーリはまだわくわくしていた。
これから旅立つまだ見ぬ未来と自分の運命が近づいてきていることに。

 こうして旅立つメンバーが決まり、やがて一行は魔の森へと向かうことになるのだが、それは続きのお話で__


‘‘______真の魔を見つけられるものはいづこ?__‘‘





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