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 鬱蒼と茂る森の奥。
日中でも暗く日差しが差さないその森にマオと呼ばれる少女とリコレッタという幼い少女がいた。

「ふー。アクシデントもあったけど何とかソフトクリーム食べれましたね。マオ様」
「そうだな。リコ。もう変身を解いたらどうだ」
「そうですね。動きづらいですし」
 キラっと幼い少女の体が光るとポンっと煙が発生した。
そして現れたのは小さな蒼い体に、長いしっぽ。
口は大きく、鱗はつやつやと光に反射してきれいだ。
なにより水の加護を受けている為、傍にいると雨の前の静粛さを感じられる。

「ブルードラゴン」

人間はそれを水に属するものとして奉りあげてきた。
「はぁ。人間に飛べる翼があれば最強なのに。惜しいですね」
「そうか。モンスターにも凄いのがいるぞ」
「ええ。たとえばマオ様とかですね」
 ここ数百年でリコレッタは心底マオに陶酔するようになり言葉使いもマオの下につくものとして敬語まじりに変わった。そんなリコレッタはニコニコと無邪気な顔をして大きな口でにんまりとする。
それは、大きくなると人々から恐怖を植えつけるのだがまだ小さいリコはその姿もかわいいと思えるような愛らしいものだった。

 少女達は森深く、どこかを目指して一直線に進んでいく。

 深い森の奥、真っ黒な影に侵食された森深くに今は誰も住んでいないとされる廃城がある。
その城とその周囲にはかつては主に旅人達が寝泊りする宿場町が広がっておったのだが、ある日を堺に突然その街とお城から人間が消えた。
その代わりに木々が蔓延り、森が誕生したのだ。
それは突然のことであり事件当時はかなり不気味な城下町として名を轟かせた。
が、それも数百年経てば、人の噂にすら上らない、最初から無かったかのような扱いで城は放置された。

______その城にある日、突然少女が住み出したことなど誰がしれようか。

 マオは生まれ持っての一城の主だった。
ある日突然その廃城の暗闇からマオは生まれた。
周りには人は無く、さらにモンスターもなく、彼女は孤独だった。
親というものすら知らず少女は育っていった。
成長するために生物の理として当然のごとく、彼女の腹は減り、それを埋めるかのごとく
少女は城を守っている森を伝ってモンスターが生息する森林地帯に入り込んでは
狩りの仕方を自分で編み出し食料を調達していた。

 そうして数百年、生きてきた。

 何時の間にか森のモンスターからも恐れられ、恐怖の存在として崇められてきた。
リコレッタと出合ったのは闇から生まれてからまだ間もない何をするのにも
手探り状態のそんな狩りの途中であった。
当初は敵対していたもののやがてはマオの保存用食料としてまた下僕としてリコレッタは生かされた。
 それから数百年共にいるがまだリコレッタは喰い時ではないとマオは傍に置いていた。
また城には知識を得る為の本がたくさんあった。
そこから彼女はたくさんの人の知識を得ていた。
彼女は自身が無から生まれた存在だったこともあり多くのことに興味をもち吸収していった。
さらに彼女には最初から力があり、どうすれば魔力を大量に放つことが出来るのかなどはまるで赤子の手をひねるかのように自然と身に付いた。

 そんな彼女も時々気まぐれを起こす。

 それは今回のようなソフトクリームが食べたいというものやらモンスター狩りやら様々な種類の興味と冒険心だ。
それになんだかんだ言いながらも毎回付き合うリコレッタもいつものことと慣れっこになってしまった。

「しかし、マオ様ってば本当に物語に出てくる魔王様みたいですね。
こんなところに住んでいるのも意外だったけれど、イキナリどこそこへ現れては
悪戯して帰るなんて普通のモンスターじゃ絶対しませんしね」
「? だから魔王ってなんだ? 人の書物にも書いてあったがいまいちピンとこない曖昧な表現ばかりで役にたたないし……」
「魔王とは、たかだか数十年しか生きられない人間が作り出した基準ですよ」
「だから何のだ」
「どうでもいいじゃありませんか。そんなこと。それより、次の場所は決まったんですか?」

 マオは城の宝物庫の奥に眠っていた魔力を有する水晶を取り出してきては、そこから世界を覗きみていた。
それこそが彼女が毎日生活するうえでの最高の暇つぶしであり、日課だった。
そして気になることがあれば、現地に赴き遊んで帰ったりしていた。

「ああ。今決める。
そうだな。トーレスカとかどうだ。なんか3日後、祭りが行われるらしい」
 祭りといえば人ごみである。
人ごみどころか人間が嫌いなリコレッタは少々げんなりした。
今回も無事で済みますように。
幼い竜は旅立つ前、いつもそう切に願う。
これももう恒例行事となってしまっていた。
「ふむ。リコレッタ。そこまで憂鬱になることもあるまい。
祭りは確かに人間が集まる場だが、その分我らの好物の魔に魅入られたものも集まる。
つまみ食いは許可するぞ。我が食す分以外ならば好きなだけ喰え」
「そうですね。そこまでおっしゃるならば私の分は残してくださるんですよね? マオ様ってば毎回独り占めばっかりするんだもの」
「リコが早く取らないのが悪いんだろう? 我のせいではない」
「ぜったい、マオ様のせいだ」

 魔を取り込むほど自身に魔力が溜まり、全身の魔力の循環がよくなりより強い力を振るえる。
それは人間もモンスターも同じこと。
ただ愚かな人間は魔を取り込み、自身が高みに上ったと勘違いして暴走して勝手に滅びる。
 だがモンスターは違う。
魔を食すのは一種の嗜好品のようなものだ。
モンスターは魔を外部からとりこまなくても生きていける。
自身のモンスターとしての性が魔を作り出すのだ。

 とはいえ、マオは魔が大好物だった。
自身の持つ魔が増えるたび、その他大勢が下に下っていくのをマオは何の感慨も持たず見送る。
マオは生まれつきその他大勢の上に立つものだった。
生物の強者と弱者の三角図では常に最上階が当たり前として認識していた。
自分より優れたものなどこの世には存在しない。
なのになぜさらに魔を喰らうのかと問えば、ただ自身が今以上に強くなれるのが単純に嬉しかったのだ。

「三日後が楽しみだな。リコ、三日経ったら起こしてくれ」
「了解しました。マオ様」

 ふわぁとけのびをし、マオはかつて滅びた城の主が座っていただろう椅子でつかの間の眠りに入った。
__まだ見ぬその冒険に備えて。



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