――商業の都トーレスカ。
いつでも陽気な人々が溢れ、賑わい、街を歩くと威勢のいい商売の声がそこかしこで鳴り響く人情溢れる街だ。
そこでは他ではめったに手に入らないものがたくさん出回り、地方からも様々な貴重な資源が集められ、売買されていた。
また、腕のいい職人も集まっており芸術面でもとても優れた街だった。

「旅だってから、今日で三日。とりあえず王都でも有名なトーレスカを選ぶとは修行の旅じゃなくてまるで観光みたいだな。キーリ」
「煩いよ。ヴァイ」
ぴこぴこと背の高い少年の金髪から蒼い鱗を纏った尻尾が楽しそうに彼の頭を叩く。
「ここまでなら一度来たことがあるから旅立つならまずここなら安心かなぁって思ったんだよ」
金髪に蒼い目を持つ少年キーリは不満げに言葉を放つ。
「馴染みのある場所に来ただけじゃ旅だったって言えないんじゃないか」
金髪からひょっこり顔を出した小さなブルードラゴンことヴァイオレットはニタニタと反論する。
「これもこれからの為の第一歩だよ」
ヴァイオレットを牽制しながらも歩く少年の視線はまっすぐだ。
「でもそっからはまだ決めてないんだろ? マスター、これから旅だとうってするわりには無計画だよね」
「う。」
「しかも無頓着だし。」
「まぁな。」
「まったくこの先の僕はマスターの為に苦労しどおし決定だな」
はぁとため息をつく幼い竜を頭にのせ、キーリ一行はとりあえず宿屋を目指して移動していた。

「あ。街の掲示板だ。ここは街の中心地みたいだね」
 どこの街でも王都からの知らせが来たらすぐわかるよう掲示板を街の目立つところに置いている。
それは街の治安隊の事務所の近くだったり、旅人が集まる宿屋の前だったり場所によって様々だ。
「へぇ――『常世の闇の森深くに住むという魔王を倒したものに褒美と共に勇者の銘を授ける』だってさ。マスター」
「そうらしいね。魔王退治とは世も不況だね」
まゆを下げて嫌そうな顔をするキーリに幼い竜はため息をつく。
「そうじゃなくて。これ、いっそのことキーリの目標にしたらどう? どうせ旅の目標すら決めていないんだろう?」
「う。なんで知ってるんだよ。ヴァイ。
…無理無理。いくら修行の旅だからといって、魔王と俺がやったら、確実に死ぬよ。俺」
「ってそんなに弱いのか。マスター?
そういえばマスターが実践で戦ってるところって今のところみたことないけど……
まさかモンスターに会いにくい道を選んできてるのってその為!?……マスターに勇気とかって無縁だよなぁ」
「なんだ、そのため息は! 別に俺は弱くはないぞ。それに合理的な考えで俺は行動してるだけだ」
合理的じゃなくてそれじゃぁ修行にならないだろうとヴァイオレットは心の中でおもいっきりつっこんだ。
本人の前でいうとさらに凹んで、へたれになるから言わないが。

「それにしても、なんだか街全体が前来た時よりも賑やかだな」
 商店街らしき場所を抜けても多くの人びとの行き来は止まらない。
それどころかこれから夕闇に入ろうとしているのにますます人が増えるばかりだ。
右をみても左をみても前をみても後ろをみても人人人人…
 そんな現状に再び竜はため息をついた。
「人酔いしそうだな」
王都でも普段人はたくさん通るがここまでではない。
「何か、あるんじゃねぇの?」
「何か……ってなんだよ?」
「マスター、僕が人間なんかの街のことなんか知るわけ無いだろう? しかたない、マスターの為にちょっと見てきてみるよ」
 竜はパタパタと怪我が直ったばかりの自慢の翼を広げ街路地の空中に舞い上がる。

「____どうだ? ヴァイ?」

「こりゃおどろいた。街中花だらけだ」
空中で左右を見下ろしていた竜はポツリとつぶやいた。
「花だらけ? 何かイベントごとでもあるのか?」
ゆっくりと降りてくる竜とともに疑問を抱きながらキーリは歩くたびに
華やかになっていく景色をみながら街を進んでいった。

「一泊宿を頼みたい」
 それから随分歩いてキーリはようやく部屋が空いている宿屋を見つけた。
何故か大きな宿屋も目立たない小さな宿屋もどこも満室で
キーリは宿を探すのにこんな街外れまで随分歩かされていた。
「へい。毎度。祝祭価格になるけどいいかね」
「祝祭価格?」
「おや、知らなかったのかい? 明日からこの街名物のトーレスカ祭が行われるんですよ。
行ったことないなら是非立ち寄ってみてやってくれ」
「あ。はい。そうですね。一日くらいなら……」
「へーお祭りかー……でもマスターは勿論祭りには参加せずに次の街に向かうんですよね?」
キーリの頭上で黒い笑みを浮かべいるヴァイオレット。
「だって、修行の旅の最中ですもんね」
「いいだろ。一日くらい」
ブツブツと頭の竜と会話しているのをみて宿屋の主人はおやっと声を上げた。
「おおっとドラゴン様も一緒だったのかぃ。じゃ二人分の宿料だな」
「え。そんなご主人。ペット一匹で一人分とるんですか」
「祝祭価格だから……な。嫌なら他の宿をあたりな。まぁ、あいてるとこなんて無いと思うけどな」
ニヤリと口の端をあげる宿屋の店長にキーリは完敗を悟った。

「部屋は二階の一番奥だ」
「ありがとうございます」
 キーリは鍵を受け取ってさっそく部屋のベットにどさりともぐりこんだ。
何時の間にか頭から降りてパタパタと飛んできた竜を眩しく見る。
「……外見とレア度は俺好みなのに何故に中身がそうなんだ。ヴァイオレット。もっと中身も俺的理想のかわいらしいこがよかったのに……そういえばヴァイ。お前性別はどっちなんだ。ドラゴンの雄雌の違いなんぞちっともわからんから気づかなかったが」
幼い竜は今更だな。と呟くと大きく自身を仰け反って強調し、
「僕は雄だ。普通言動で気づくだろう? 残念ながら人間でいうとマスターと同じ。男だ」
とのたまった。
「ち。なんだー。女の子だったら喋り方とか調教してやろうと思ってたのに。そうか。野郎か。野郎ならほっぽいても問題ないな」
けっと布団をかぶったままヴァイを見るキーリにヴァイオレットはあきれた。
「……マスターなんかに調教されたらひどいことになりそうだから僕がたとえ雌だとしても遠慮しておくよ」
幼い竜は苦々しくうつむいた。




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「キーリは勇者になりたいか?」
「うんん。勇者じゃなくていいや。僕は。
でも勇者みたいに多くの大事な人を守れるようになりたい」
 幼いキーリに当時少年の祖父のじいさまがよく話し相手になってくれていた。
じいさまは若い頃あらゆるところで名をはせていたと豪語する人だったので館の当主としての責務を父に譲った後、幼いキーリに剣術を教えたり草木の食べれないものと食べれるものの違いを教えたりと色々世話をしていた。
特にきのこの見分け方には頭にしっかりと覚えさせられた。
 一方、少年の父は貴族の当主として忙しかった為にキーリには放任主義を貫いていた。
少年の母は出産の苦しみが烈しくキーリを産むと同時に亡くなってしまっていた。

 キーリはそんななかですくすくと育ったのだ。

 少年は時折寂しげにしていたが相手してくれるじいさまがいたので本当に明るく育った。
「勇者っていいことしか出来ないんでしょ? だったら嫌だなぁ。
僕まだじいさまに悪戯とかしたいもん。
僕が大人になってとうさまの代わりに当主になる方がまだ楽でいいや。
それか、勇者になるんだったら英雄になるほうがいいや。
英雄ってなんかかっこよさげだし、儲けてそうだし。
勇者ってなんだか頼りにされまくりが当然? てか人が頼って当然だと思われるの嫌だし、その点は英雄も一緒だけれど、英雄なら金を後で堂々と請求できそうだしね」

 どっちも似たようなものなのに少年が抱く理想というとこうも違いがあるのか。
英雄だって金を取らない、素敵な英雄もいるのに。
と少年の祖父はやれやれと肩を落とした。
勇者とは男のロマンなのになぁというじいさまは心底残念そうだった。

_____大きくなったらまた考えるがいいとじいさまはよく幼いキーリの頭をしわくちゃな手で撫でてくれた。



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