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大きな手に触れられる夢を見たのはいつぶりだろう。
なんだか暖かくてくすぐったい、そんな夢の余韻を引きずりながらキーリは目ざめた。 「お。起きたか? マスター顔あらってきたら」 「そうだね。そうする」 先に起きていたのか、ヴァイオレットは元気にトランポリンのようにキーリが寝ていたベットで遊んでいる。 そんな小さな竜を横目にキーリは心持穏やかな気分で朝の冷たい水で顔を洗う。 すると頭の中のもやもスッキリしてさぁ一日がんばろうという気にさせてくれた。 「……英雄か。そうだな、なるんだったらそっちの方がいいよな」 洗面台の鏡に映る自分をみて、随分あの頃より成長したなと思う。 でも中身の方は残念ながら変わらなかったようだ。 今でも勇者になりたいとはちっとも思わない。 ただ、大切なものだけはしっかりと守れるようになりたいとは今でも強く願う。 その想いを持つものこそが自分なのだ。とキーリはひとり納得していた。 「マスター。遅い、祭りが始まる前に街を出るよ。 こう人ごみが多くっちゃ、行動しにくいから早いうちに街の出口まで行ったほうが無難だよね」 いかにもうっとおしいように言うヴァイオレットに、どうやらこの竜にとって祭りは楽しむものではなく昨日もいっていた人ごみがうっとおしいだけのイベントとして認識されているのだろう。 「うう。ちょっとだけお祭り覗いて行こうよ」 「ま・す・た・−! 修行の旅だろう?」 体は小さいのに竜のもつ大きな口を最大限あけて促すヴァイオレットの迫力はさすが竜ってところだろう。 結局、頑固な竜に早々にかなわないとお手上げしてキーリは朝早く宿を発つことになった。 「さぁ次の街へ行くよ。マスター」 「えーもうちょっとゆっくりしていこうよ。」 張り切って先頭を飛ぶヴァイオレットにキーリはややおされ気味だ。 「駄目。ただでさえ、あそこの宿屋を見つけるために街の端っこまで来てるんだから今度は街の出口まで端から端まで歩かないといけないんだよ。 しかも、この街無駄に最上級下層と最貧民下層に分かれてるから変な道を通ると危ないって宿屋のおっちゃんも言ってただろ。 マスターなんかゴロツキと会ったら一発でやられちゃうよ」 「うーん。一発で……ってことはないかもしれないよ? 俺じいさまとの訓練でじいさま倒すことができたし。 自分じゃそこそこに強くなってるかと……?」 「そのじいさまとやらは弱かったんじゃ……マスターも弱そうだし」 「いや、じいさま勇者に一番近かった伝説の男って言われてたって自分で言ってた」 所詮どうあがいてもキーリの祖父だ。きっと自分で伝説をつくっちゃったにちがいない。 きっとそうだ。 キーリの実力を知らないヴァイオレットは呑気にもっと強くなってもらわねばと密かに心粋を新たにかみ締めていた。 「……まぁじいさまが亡くなってからは一人で練習ばかりしてたから腕落ちたかも」 キーリとヴァイは増え始めた人の流れに逆らって、街の出口目指して歩いていっていた。 それでもやっぱり祭りが気になるキーリは無駄だと思いながらもヴァイオレットにちょっとだけと必死に説得していた。 「何回言うんだ? 修行の旅なんだろ? マスター」 「何回言わせるんだ? 祭りは楽しまなくっちゃだろ? ヴァイ」 どこまで言っても平行線を辿る二人?の言い合いは街の出口近くの広場につくまで行われた。 そこでキーリは唐突に止まらざるをえなかった。 どうも街の出口に何かがいるようなのだ。 多くの人が出入りする街の出入り口付近でやけに立ち往生している人が多いことに一人と一匹は気がついた。 「ん? なんか人が集まってるな?」 何やらヒューヒューとはやし立てる声が絶えず多くの観光者も足を止めて見入っているのをみると何か楽しそうなことでもやってるのかとキーリは人垣の中に首をつっこんだ。 「あ。ちょっとマスター!!」 「出口にいくんだろ? ついでだよ。つ・い・で」 人垣を除け、なんとか人垣の前までたどり着いたキーリはそこでおおっと目を見開いた。 ――キィィインと金属の擦れる音が辺りに響き渡る。 剣と剣がぶつかり合い、小さな衝突が何度かくリ返されていた。 対戦相手は巨漢の男と小さな少年。 どうしてそうなったのかは分らないが、少年と大きな男の剣と剣がぶつかっていた。 二人の戦いは少年のほうが圧倒的に不利な状態で小さな少年はほとんど大男に振り回され防御にまわるしか手はなさそうだ。 このままじわじわと少年がやられていきそうだな……いやもう少しねばるか?とキーリは思ったとき場の雰囲気は一変した。 突然の大きな男の足蹴りにより小さな少年は見事に吹っ飛び人垣まで巻き込んで倒れていった。 「ほい。また50Gゲットだぜ! ふははは。他に挑戦者はいないか?」 「きたねー剣術勝負だろう。なに足技つかってるんだ」 と周りから野次が飛び交う。 金額を提示して戦闘を行っているのをみるとどうやら賭けを行っていたらしい。 「賭け金は50G! 腕によりがある奴は出て来い! 俺がぶっ飛ばしてやるよ。 ついでに関係ねぇと思うがさっき負けたやつのと合わせて賞金は400Gだ!」 400Gかそいつはちょっと一儲けできるなとヴァイオレットは思ったが このへなちょこのマスターがこんな大男にかなうわけないとすぐ凹んだ。 「……400Gか。やってみようかな」 そんなヴァイオレットのスグ横から声が聞こえたのは幻聴だと思った。 まさか、あのマスターが…… 「……旅するのにお金はあるほうがいいからね」 ああ、なるほど金狙いの浅知恵か…… 「俺、立候補します」 「何言ってるんだよ。マスター」 「大丈夫」 その根拠の無い自信はどこから…… ヴァイオレットは負けてもまぁ勉強になるだろうとそれ以上止めるのをやめた。 ……ボロボロにやられなければいいけど。小さな竜はやれやれと首を斜め下に傾けた。 人垣から出てきたキーリを見て、相手の大男はまた子供か。とニヤッと笑った。 「おっ、なんだ少年やるのか? いいのか50Gかかるけど」 「はい。いいですよ」 キーリはそう言うと50Gを金が積んである地面にチャリンとまた50Gを落とした。 周りの人垣からは子供相手に金取りすぎだー……どうせ大男が勝つだろという声がそこかしこから聞こえてくる。 「お金目的なのは分ったけど……無理だろ? もうこうなったら無茶するのはいいけど、怪我しないように逃げ惑ってくださいね」 ヴァイオレットは金に目がくらんだマスターが悪いと言いつつ、静かに空中を飛んで上空からキーリを見守ることに決めたようだ。 「よし。じゃ、始めるぞ」 大男の言葉で急に剣が振り下ろされる。 余裕で除けたキーリになおも大男の追撃は迫っていく。 キーリはまだ、剣さえ抜いていない。 ビュゥウンと大男の構える大剣からは遠心力を利用した勢いで風を斬る音が聞こえる。 キーリは大きく振りかぶって剣を叩きつけようとする大男の隙をついてようやく自身の剣を鞘から抜いた。 と同時に鋭い一撃。 「ぐっ……」 辺りに金属がぶつかった時特有の音が響き渡る。 大男は何とか初撃を受け止めたがそれ以降は想像以上のキーリの力に振り回された。 それでも大男は自慢の負けず嫌いを発揮して何度目かの打ち合いになった。 甲高い音が辺りを支配する。 だんだんと大男の荒い息がその場を占拠していく。 キーリの方は呼吸音ひとつ乱していない。 「この野郎……いい加減に負けやがれ!」 大男は大剣を斜めに構えありったけの力を込めてキーリを狙ったが…… その際の大きな左脇の隙を見逃すほどキーリは甘くはなかった。 勝負は目にも留まらぬ速さでついた。 「……降参だ」 男の左袖が斬られ、欠片が宙を舞ってゆく。 大男の必殺の一撃にキーリは見事勝ったのであった。 驚きの結果に民衆の思いが、わぁあああと一気に爆発した。 「あ……あの、マスターが」 上空にいたヴァイオレットもその結果にクラクラと思わず落ちそうになってしまい慌てて力強く翼で空を切った。 そんな状況もなんのその。 動揺ひとつ浮かべていないキーリは約束の額…と言い、金が置いてあったところから勝手に財布に金貨をつめていた。 「なんだ、この街しか使えない、地域振興券で払ってる人もいる。しかも期限、今日までだ。仕方ない、武器屋にでも行って何かと交換してくるか。ってことで街に戻るよ? ヴァイ」 にっこりと相変わらず疲れた様子も見せないキーリはホクホク顔でもときた道を逆流しはじめた。 |