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「ふむ。やはり人が多いな。祭りとやらはどこでやってるんだ? リコレッタ」
 人が多いので人に化けるのはやめにしておとなしくリコレッタこと小さな竜はマオの肩にのって移動していた。
 さらにマオの紅い目も尖った耳も目立つし、何よりモンスターであること自体が不味いのでマオはサングラスをかけ耳はフードをかぶって誤魔化していた。
この風貌で肩にかわいらしい小さな竜である。
それはちょっと和みそうでいて近寄りにくさをかもし出していた。
「ちょっとまってマオ様。
…………(ざわざわ)
うん。メインイベントの祝祭のイベントは街の中央で行われるって」
小さな竜は多くの人が喋る声のなかから、イベントを行っている場所を聞き出した。
「そうか。なら行こうか。……で、この街の中央ってどのへんだ?」
「さぁ?」
 肝心なことが分っていない、マオ達一行であった。
「とりあえず、人波に乗せられて行ったらたどり着くんじゃないか?」
マオは案外適当だ。
「マオ様がそうおっしゃるなら。そうかもしれませんね」
そのマオと共に過ごすうちに元しっかり者のリコレッタすらマオの適当が今ではしっかり移ってしまっていた。

 一人?と一匹はのそのそとこうして人ゴミの中に埋まるように消えていった。




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 人の波に流されること約1時間……
正確には目の前を歩いていた人の後をつけること約1時間……
マオは過去の自分を省みて、やっぱりまずかったかと苦く思う。
 街についた当初は屋台を見て歩き、何時の間にか手にはりんご飴とたこ焼きを抱えて食べ歩いていたが何時の間にか屋台は消え、街の寂れた低所得者の民衆が多い廃墟ばかりのところにたどり着いてしまった。
 人ごみの中、前を歩く人もなんだか急いでいたからてっきりもうすぐ始まるというイベントの会場へ行ってくれるのだと思い込んで付いてきたのだが……
「無念だ」
その人は全然違うこんなところへと向かっていたらしい。
「しかも見失った」
非常に悔しそうにマオは呟く。
 あの人間今度会ったら、叩きのめしてやるとマオはその人にとっては完全なるやつあたりをブツブツと唱えた。
「マオ様、引き返しましょう?」
肩にのった竜もようやく迷子になってしまったという事態に気づき苦肉の策を提案する。
「ちっ……そうだな……そうするか」
 マオは残念そうに肩を落としサングラスを投げ捨ててうす暗い世界から脱出した。
次の瞬間パチっと紅い目をしばたかせた。

「……リコレッタ。まて。コチラであっているようだぞ」
「え? こんな廃墟に何もないと思いますが……」
「大勢の人の魔のニオイがする。しかもだんだん強くなってきているな」
小さな竜もそこまで言われて初めて、おやっと気配を読んできづいたようだ。

 マオは魔に過敏だ。
それはマオが魔を大好物としていることを除いても魔がモンスターとして生きていく上でとても大事なものだからだ。
魔とはモンスターが獲物を狩るとき等に発せられる興奮や恐怖や恐れなどの気から成り立っている。
人間でも、怨念の意思や恐怖に感じたとき、人を卑下する気持ち、圧倒的な興奮等からも発生したりする貴重な想いが魔だ。

「確かにいますね。この先に大勢の人間が」
うなずくリコレッタにコクリと目で合図してどんどん酷くなっていく廃墟を進んだ。
「なんだ。皆イベントに参加してて一箇所に集まってるだけで局地的にいないだけか」
とマオは自身の絶対的な魔に対する探知力を生かし、随分と入り組んできた道を迷わず進んでいく。

 幼い女の子の声が聞こえたのは、もうすぐそこにたどり着くというときだった。
「すみません。鍵をみられませんでしたか」
戸惑ったような、おそるおそるといったような小さな声でマオ達は呼び止められた。
「なんの鍵だ? ここへ来る途中では見かけなかったが?」
 声をかけてきた幼女はボロボロの服にガリガリの体をした貧しいこの街はずれでは典型的な栄養失調の風体をしていた。
「どうしよう、確かこのへんで落としたのに……」
幼い少女はその場にしゃがみこみ手探りでその鍵とやらを探しているようだった。
「鍵が見つからなくて残念だな。じゃ、我らは行くぞ。時間もないことだし」
 ここで一緒に探さないというのがマオである。
幼い少女を見捨てて行ってもどんなに卑下されようが、マオは祭りのイベントとやらから視線をはずせない。

 ――だが、しかし、
「あっ、これじゃないですか?」
リコレッタはマオと違って少しは辺りを見ていたのかもしれない。
見事に鍵とやらを見つけて、リコレッタは嬉しそうに飛び跳ねた。
 小さな口に咥えて、幼女のもとへ錆びついた銀の鍵を運ぶ。
「あ。ありがとう。おねえちゃん」
幼女は満面の笑みでそれを受け取った。
「おねえちゃん? なんだそれは」
「マオ様のことです。……主に人間の若い女の人を呼ぶときに使います。それより私ががんばったのに……何故評価しない?」
 あいかわらず突然疑問を言い出す直球のマオに辞書のように冷静に突っ込むリコレッタは毎度お馴染みなのか慣れきっている。
「おねえちゃん? ひょっとして街のイベントに向かう途中?」
「そうか。おねえちゃんとは人間の女のことを指すのか」
ふむ。なるほどなと一人納得しているマオは幼女の声はまるっきり無視である。
「おねえちゃんはこの街初めてでしょう?」
「私はおねえちゃんではないが。……この街初めてというのは確かにそうだ」
そう、マオは人間ではなくモンスターなのだ。
マオはようやく自分の世界からかえってきたようだ。
「やっぱり。あのね。このイベント人が沢山いてよく見えないでしょう?
手伝ってくれたお礼に人のいない絶好のポイントを私知ってるから連れてってあげる」
「おお。それは助かる」
「マオ様、怪しいですよ。いくら幼女とはいえ、こんな寂れた処に住んでいるものですよ」
警戒するリコレッタにマオはそうか。それもそうだなと思い直した。
「幼女よ。我はお前を警戒する。だから安全でイベントが良く見えるところに案内してくれ」
「……だ〜っか〜ら、マオ様、全然警戒してないじゃないですか」
「うん。大丈夫だよ。危険なことはなにもないよ」
ニコっと哂う少女の笑みは子供特有の無邪気なものだった。
 ついてきて。と幼女はひとこと告げるとたたっと走りだした。

「どうします? マオ様?」
「そりゃ、ついていくに決まってるだろう? 安全で見やすいところに案内してもらうんだ」
 マオはかけらも疑う様子を見せることなく幼女の後を追った。
マオの後から翼をはためかせて飛ぶリコレッタは嫌な予感がした。
 幼女の行く先には魔が満ち溢れている。
通常、祭りのイベントごときでこんなに沢山の怨念や殺気がまじった気配など感じられるだろうか。何より、幼女には初めて会ったときから魔のニオイが感じ取れた。
 
「さ。ココです」
「なんだ? こんなところでイベントなんかやっていないだろう? 早く会場に連れて行け」
「……おねえちゃん、もうついたよ。ここの向かいがイベントの広場になっていてここの窓からならイベントが思う存分に見られるんです。さ。早く入って?」
連れてこられたのは小さな倉庫の中で。
 倉庫の中に入ったとたんにマオは幼女本来の魔のニオイが強くなったことに気づいた。
幼女は何げない動作で倉庫の扉を閉める。
 その間、マオは倉庫を見回していた。
「? おい。窓なんかこの部屋にはないぞ。イベントは本当にココで見られるのか?」
マオはちょっと期待はずれになってむっとした。
「……大丈夫よ。おねえちゃん、もうじき思う存分みれるから。
……おねえちゃんの瞳はとっても綺麗ね。それに髪も艶やかで、顔の造作も悪くない。それに貴重種のブルードラゴン。ああ。こんな素敵な出会いをしたのは私初めて」

 マオに背を向けたまま喋る幼女は急に興奮したような声をみせた。
「それに鍵をありがとう。なくして本当に困っていたの。手錠の鍵がないと今日はくいっぱぐれてたわ」
「手錠? 一体何するためのだ?」
「……そろそろね。おねえちゃん、もうすぐしたらきっと自分で気づくんじゃない?」
マオは訝しげに幼女を見ていたが、やがて自身の異変に気づいた。

「なんだ……? ……ふわぁあああ……?
我はここに来る前に3日も眠り続けていたというのに…なんか眠くなってきた……」
「……マオ様……この部屋、強い催眠導入剤が撒かれているみたいです」
「さ。おねえちゃん、おやすみの時間よ。ごちゃごちゃいってないで、ゆっくり眠って。目覚めたときはイベントが見える最高の舞台に連れてって上げる」
 何時の間にか口をマスクのようなもので被った幼女はニコリとマオを引き連れてくるときに
みせた笑顔と同じ顔でほほえんだ。
「……くそっ。……嫌だ。イベントを……見るまで我は眠らん……ぞ」
マオはやってくる眠気にたえきれずに膝を地面についた。
 そうして一分ほど経った頃にはマオの意識は夢の中に到達しそうになっていた。
「……って、マオ様寝ちゃだめ!! しゃきっと起きなさい!!」
ペシリとリコレッタはマオの顔を翼ではたいたが、マオは完全に熟睡中だ。
「むにゃ。リコレッタ。……おとなしく……してろ?」
「ああ。もう……」

「? おかしいなぁ。ドラゴンには効かないのかな? まぁいーや。ドラゴンちゃんには気絶でもしててもらお」
 幼女はその様子をみてふうんとつまらなさそうに淡々と言うとリコレッタのしっぽをつかみグルグルグルグルと全身を使って回りだした。
「はぅぁ!! 目が回る!! コラ。人間の子供! やめなさい」
「ホラ、とっとと気絶する!」
「ギャフ!!」
ドシリと最期の一撃は倉庫のカベに頭からほうりなげるという乱暴なやり方だったがとにもかくにもリコレッタは気絶させられた。

「さぁおねえちゃん、イベントに行くわよ。
もっとも、表のとは違って、知る人しか知らない貧民街の裏のお祭りのイベントだけどね」
 フフっとマオが眠っていることを確認した幼女は静かに隠してあったところから縄と手錠を取り出し、マオ達を拘束した。


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