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「知ってるかい? ヴァイ。いい武器っていうのは本通りのちゃんとした店にはないんだ」
「? マスター。武器を探してるんだよね?」
一度来たことがあるといっていた分、キーリは地の理があるのかスイスイ波を泳ぐように進む。
ヴァイオレットに押されて嫌々歩いていたときとは随分違いがある。
祭りの人の流れは今は中央でのイベントに向かっているのかキーリはその流れを利用してイベントの為と前へ行く人を潜りぬけて進む。
「ここはまだ大通りだけど」
唐突にキーリは角の華やかなディスプレイを掲げる服飾屋を右に回る。
 大通りから進んだその裏通りはガランとしていて人もいなく閑散としていた。
「ほら、こういう寂れた感じがいい武器を作るんだよね」
そこは貧民たちの住む場所と同時に腕利きの職人達の通りへ進む道でもある。
職人たちのなかには脛に傷を持つものも多い。そんな職人たちを受け入れて繁盛しているのがここいら一帯なのである。
「マスター。危ないぞ」
 治安の悪さなら折り紙つき。
そんなことは百も千も知っているキーリは、ヴァイオレットの警告をそうだねと軽く流して軽快に進む。
進むたびにどんどん悪くなっていく景色にヴァイオレットはおっかなびっくりだ。
それと同時に何か引き付けられるものがあるのか魅惑的な艶やかな目になっていく。
「……やっとヴァイもきづいた?
ここには魔がある。ヴァイもモンスターなら気づいただろ」
 目を最大限に見開いているヴァイオレットにキーリは気づいて声をかけた。
 モンスターが強くなる為には魔を取り入れればいい。それも最上級の上質なものを。
最大限の悲劇の味を。例外なくモンスターはその味を知っている。
モンスターにとってそれはとても煽情的で魅力的な味なのだ。
「僕、魔はちょこっとしか摂取したことないんだけど。
魔の味は格別だったよ。それがこんなに……」
「今のうちに精一杯吸い込んどいたほうがいいよ」
 モンスターによっては魔を外から取り入れることを嫌がるものもいるがヴァイオレットはそれには当てはまらなかったようだ。
目を輝かせて魔を取り込んでいるヴァイオレットはやや恍惚の表情をしていた。
「……そんなにうまいものなのかな。魔は?」
「人間なんかにこの味はわかってたまるかよ!」
短い問いに叫ぶ竜はよっぽど魔に集中しているらしい。
「ふぅん? まぁ人間が魔を必要とした時は魔に逆に食べられるらしいしね。
俺はわかんなくていいや。……ところでヴァイ。武器探しに来てること忘れてないよね? ほら、いくよ」
キーリはヴァイオレットの体を掴んで肩にのっけて移動を再開した。
 こうでもしないと魔に夢中なヴァイオレットは動かないと踏んだからなのだが、あながち外れてはいないようだ。
 なるべく早くこの貧民街を抜けたい。
キーリは危険はわざわざ買うものではないと思っている。
ここに長く留まれば留まるほど安全という道からは遠く離れていくのだ。
ならば、早く抜けるに越したことはない。
早足だったものはやがて競歩をしているかのようにさらに早くなりキーリ達は先を急ぐ。
 薄暗い一軒の店を見つけたのはそれからまだ随分とかかった頃だった。
扉の前に張ってあった小さな張り紙には「武器屋」とだけ書かれている。
ギィイィイと年代ものらしい扉は騒々しい彼らによって開かれた。
「……誰だい? ここは一般人が買えるものなんてないぞ」
キーリの身なり……といってもごく普通のシンプルな旅装束なのだが……を見て店主は一言帰れと告げた。
「ここにある一番の剣が見たい。出してくれ?」
それに対する返答がこうである。
店主はそのあきれ返るほどの堂々としたキーリの態度に度肝をぬかれ、やがて本来はおおらかな性格なのだろうやさしい顔つきになって大きな声でまいどと返した。
……一方、ヴァイオレットはまだ魔に恍惚としている。
こういう闇の場所では絡まれた方は堂々としていればいいのだ。
それはキーリだからこそ、場慣れしているからこその考えだが。
「ここにある剣で一番なのは、イベントにまわしちまって今はこれぐらいの剣が一番だね」
受け取ったキーリは静かに剣を鞘から抜ききった。
出された剣の刃を指ですべらせ、その輝きを確認するかのように角度を変え
じっと見つめるキーリは剣士としては一流なのだろうか。
最終確認なのかキーリは軽く人のいないところへ向けて一閃、軽く剣を振り下ろした。
……やがて、満足したかのように鞘へ剣を収め、店主に振り返った。
「二番でこの出来はいいな。……一番がみてみたい」
ここに一番がないことに悔しそうなヴァイは店主にどこにいったら見れるんだ?と聞いた。
「……新参者にゃー無理だと思うぜ。ここの一番の剣は闇のイベントにオークションに出される予定さ」
「オークション? それはどこでやってるんだ?」
キーリは首を乗り出して聞いた。
「お。気に入ってくれたのかい?」
「まぁね。しっかし凄い剣作ってるなぁ。重さも手の握りもちゃんとしてる。
切れ味も保障済みなんだろう? 削るところは削ったいい剣だ」
「お客さん、わかってるなぁ。この武器を作ったかいがあったぜ。その剣もお客さんに出会えて嬉しがってるぜ。どうする? 買ってくか?」
「いや、やはり一番がいいな」
確信するその目は薄汚れた貧民街でも暗黒に染まらず蒼い輝きを放っていた。
「一番に会いにいく。どうすればいい?」




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「どうしてそうつっぱしるかなぁ」
やっと魔に満足したのか、ヴァイオレットはキーリを見つめて何度目かのため息をついた。
「ああ。僕がもうちょっと我慢していたらこんなさらにやばそうな処になんか行かせなかったのに。
……でも我慢も体に悪いよね」
へへへっと魔を取り込んで機嫌のよいヴァイオレットを連れ、キーリはオークションが行われるという広場に来ていた。
店の店主もだいぶココの場所を教えることを渋っていたが、キーリのどうしてもの一言に押されしぶしぶと言った感じでこの場所を聞いたのだ。
闇の職業の人間達が集まるそこは表どおりの陽気な雰囲気など微塵もなく、殺伐とした……今にも殺し合いが行われても当然といった雰囲気だ。
 そこへ呑気なキーリ達一行である。
当然場からは浮きまくっている。黒い服が多い広場の中で普通の格好は逆に目立ちすぎるのだ。
さらにヴァイオレットの明るい声とその容貌。
おい。絶滅危惧種のブルードラゴンだぜと誰かが言い出せばそれを狙って偶然を装ってすれ違うときに盗もうとヴァイオレットのしっぽをつかんできた者が大勢いた。
そうしてヴァイオレットを攫おうと場の雰囲気はキーリのまわりだけさらに殺伐としたものになってしまった。
「まだ始まらないのかな?」
小さな竜を狙うそれら全ての攻撃を軽いひじ突きや蹴りなどで交わして呑気にそう言うキーリを見てヴァイオレットはマスターってなかなかやるかもと心持キーリを見直した。

「あー、あー? マイクテス。マイクテス? ――レディスアンドジェントルメン!!
お待たせしました。只今よりオークションを開始致します」
 あちこちで殺気だったざわめきが起こる中オークションは闇のイベントにしては陽気に開催された。

「剣が登場するのは最期から2番目か」
それまで暇だなとキーリは言う。
オークションの特設舞台では珍しい壺や宝石なんかが提示されている。
興味の沸かない目でそれらを眺めるキーリとヴァイオレットだったがあるものには目を見開いて反応した。
キーリが。
「こちら珍しい、シガール産の猫で御座います。さぁ、300Gから始めましょう!」
「さんびゃくいち!」
1かよと周りが思う中、始まったとたん声を出したのはキーリだ。
猫は遠目でみても毛並みもよく、愛らしい。
さらに首には花と淡い色のリボンが括りつけられていた。
「310!!」
どうやらそれを見て反応するのはキーリだけじゃないらしい。
「むむぅ、俺のにゃんこを! さんびゃくじゅうい……ったぁ!!」
ここぞとばかりに普段は隠れている鋭い牙でヴァイはキーリの足に噛み付いていた。
「320!」
「ああ。また値段上げられた。……さんびゃくにじゅういち!!」
「マスター!! 何真剣に猫のオークションしてるんですか!?」
「330!」
「さんびゃくさんじゅういち!! ……って、ヴァイ。なんだよ? やきもちか? 今忙しいんだ。
後にしてくれ」
「340!」
「さんびゃく……「「マスター!!」」
オークションのある瞬間、一部で青白い焔が上がったとか。

「ああ、俺の猫が……くそぅ。」
最終的に落札したのは光り輝く頭を持つ、リッチで悪そうなおじいさんだった。
「マスター次ですよ。剣。ほら。」
「ああ。俺のにゃんこが……」
キーリは燃え尽きている。
「そもそもマスターお金あるんですか?」
「賭けで貰ったのと当分の生活費から出すから大丈夫だよ。多少暮らしぶりはさみしくはなるけど」
「仕方ないな。それに初めから剣に使うお金でオークションするなよ。」
「どんな名刀より猫!」
「「マスター!!」」
ヴァイオレットはキーリのその図太さに再び焔を吐くのであった。


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