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倉庫に入る前からマオは幼女に秘められた魔を強く感じていた。
__そう、マオは気づいていながらわざわざ危ないことに身を投げ出したのだ。 マオには言読みの力がある。 感情すらも読み取れる便利な力があるのに何故そんなことをしたのか……? それはマオの気質にあった。 マオは好奇心旺盛な子供と同じぐらい純粋に危ないことをしてみたかったのだ。 人生における駆け引きすらもマオには遊戯と同じ退屈な日常を壊すアクセントだと思っているのだ。 「残念だったね。おねえちゃん。でもキチンと見れたでしょう? 最高の席でイベント」 マオが拘束されていることに安心しきっているのか幼女は醜い笑みを浮かべたまま話す。 「フッ、アハハハ。確かにそうだな。ありがとう、幼女よ。」 高笑いを浮かべるマオは確かに上に立つ者だった。威風堂々としている。 「リコレッタはどうした?」 「竜さんならここに気絶しているよ? おねえちゃん気でも狂っちゃった? こんな状況で笑っていられるなんて……それともあきらめちゃったのかな」 未だ垂れ流しになっている殺気に押されながらも小さな竜を抱いた幼女は負けじと言い返す。 その度胸は見事だと認めよう。 マオは心の中でそう思い、フッと口の端をあげる。 「さぁ、リコ。寝てる場合じゃないぞ? 起きろ。」 「はぁい。マオ様」 倒れていたと思っていたリコレッタはさっきから気絶したふりをしていた。 己の主が目覚めるまで、その方が楽だからと。 「アハハ。二人とも目が覚めたからってどうってことないでしょ? おねえちゃんは誰かに落札されて買われていくんだよ? どうせこの拘束から抜けられないでしょ」 マオの自由を奪っている足のロープと手の手錠を見て幼女は嘲笑を続ける。 「5000G!!」 「5800G!!」 「7000G!!」 司会者が何も喋れない中でもオークションは続けられていたようだ。額はどんどん跳ね上がっている。 「さぁ、誰に買われていくのかな? おねえちゃんもゆっくり見物しとけば」 明らかに歪んだ意思を持って幼女はマオに語りかける。 「ふむ。これは興味深いな。我の値段が金額になって現れるのか? 人間どもの考えることはいつも我の想像以上のことをしてくれるものだな。 ……だが、……つまらぬな」 ギシギシッと擦れるような音が鳴る。 どこにそんな力を秘めていたのか? マオは力任せに足を左右に伸ばし、足に巻かれたロープがを引きちぎった。 さらにその反動の力を持って座っていた椅子から立ち上がる。 同時にえもいわれぬマオのまとっていた威圧感が増す。 「な……縛りが甘かったのね。大人しく座っててよ。きっともうすぐ終わるから。 ……それに手錠は流石に無理でしょ? だって金属だもん。そんな簡単に……」 あまりのことに一瞬躊躇した幼女だったが続く言葉が言葉にならない。 マオが手錠の鎖すら打ち破ったからである。 急に立ち上がったマオに会場の反応は様々だった。 興奮して値段をさらにつり上げるもの、威圧感の雰囲気に怯え見守るもの、最初から見物を決め込んでいたもの。いづれも皆熱気が覚めやまぬようだ。 「さぁ、獲物だと思っていたものが捕食者だったということになったらあたりにはどんな恐怖が、魔がたちこめるのか。我は試してみようと思うんだが? リコ」 「はい。マオ様。リコレッタも楽しみです。 今でさぇこんなにたくさんの魔が溢れているのにさらにドキドキしますね」 「お……おねえちゃん、逃げる気? そうはさせないよ!! この竜さんがどうなってもいいの?」 「ぐふぅ!!」 幼女はすばやく抱えていたリコの首筋をギュっと握りこみどこから出したのかナイフを突きつけ動けないようにした。 「あぁ? ……リコレッタどうしよう? まだもうちょっと熟すまで置いておきたかったんだが……」 「マオ様酷い、食べるかどうか悩まないでくださいよ」 目に涙を溜めてリコレッタは盛大につっこんだ。 「いやまぁもしもの時を思ってだな……食べるべきか、食べざるべきか……」 一方マオは幼女の腕の中でじっとしているリコレッタを見ながら真剣に考えていた。 「全くもう、何のんきに話してるのよ!」 幼女はのんびりと話す二人の状況に苛立ちを覚えていた。 「よし。そうだな。リコ。自分で戻ってこられるよな?」 「……マオ様、助け出そうって気全く無しですか? はぁ……まぁどうせマオ様ですしね」 リコは頷くと小さな焔を幼女の腕に向けてその口から吐き出した。 ブルードラゴンの名前の由来でもある蒼い焔が幼女の腕を捕らえる。 「あつっぅ……!! あぁーブルードラゴンが!!」 幼女はあまりの熱さにうっかりリコを放してしまっていた。 「さ。逃げますよ。マオ様!」 パタパタと空を飛んでマオの肩にとまるリコレッタは勢いを殺さずそう告げる。 「ああ。じゃ、会場中を恐怖に躍らせてやろう?」 ニヤリと哂ったマオはそれまで抑えていた魔を体全体から解き放った。 __あっという間に空には暗雲がたちこめ、冷たい風が吹き辺りは一瞬でさらに暗くなった。 舞台に付けられていた照明すらもチカチカと不気味な演出を描き、観客達は急に変わった景色に動揺の波が広がっていった。不安を煽る声が観客のあちこちから上がっていた。 それでも流石は闇に身を置くものとでもいえばいいのだろうか。値段を告げる声はなくならない。 「10000G!」 ついにマオ達の値段は大台を突破していた。 その声におおっと観客たちはさらなる盛り上がりをみせていた。 「行くぞ。」 舞台上のマオはそんな様子に見向きもせずに声を合図に舞台上から鮮やかに飛び降りた。 舞台下に綺麗に着地すると観客が大勢取り囲む中を走り出す。 観客達はこれもなにかのセレモニーかと一瞬ぼおっと見てしまっていたが、舞台上の慌てた司会者や幼女を見てそれが勘違いだということに気づく。 たくさんの観客たちの獲物が縛られていたロープなどから一瞬の自由を取り戻し自分から逃げているのだ。 ――これを捕まえないわけが無い。 相手は10000Gを越える値がつけられた人形のような少女だ。 大勢で取り囲んでしまえばこの小さな少女も捕まえることも容易いだろう。 その上で誰の持ち物かを競えばいい。 大衆はそう考え少女を捕まえようと一人、また一人とマオに手を伸ばした。 マオは機敏な動きで向かってくる人間に向かって拳で一撃を喰らわせたり、大勢の人間に向かって魔力を固めたものを放ってどんどん人間の屍を築いていった。 「うむ、旨いな。魔は。力を放ってもすぐに取り込めてこの場所は本当に便利なものだな。 ただやはり質が悪いのが難点だが」 「マオ様。魔を取り込んでる暇があったら戦ってください」 幼竜でもブルードラゴンのリコレッタは口からその体に見合わない焔を出したりしてマオのサポートをしていた。 「放出と吸収、同時にやってるんだ。その方が効率的だろ?」 正面から向かってきた男にマオは足でアゴを蹴り上げると続いて横からやってきた人間と相対する。 そうこうしているうちにマオは周囲がマオ達を狙う人間に囲まれてしまっていることに気づいた。 「ちっ。……面倒な生き物だな。人間というものは」 一発大きな魔力を放って蹴散らしてしまおうか? だが、それには時間がかかる……どうしたものかとマオは思いながらも次々とやってくる闇に属する人間達を相手をしていた。 「マオ様!」 戦ううちにナイフがかすってしまった頬を無意識に撫でた瞬間に右方向から剣をもった小柄な少年が飛び出してきていた。マオは一瞬対応に遅れる。 怖れていた衝撃はやってこなかった。 「?」 思わず俯いてしまった顔をマオは上げるとその目にはこの会場では目立つだろう旅装束の少年 キーリの背がマオを守るように立ちはだかっていた。 |