「なんだ? お前!」
突如あらわれたその少年に少女を囲う人垣から不満げな声があがる。

「まったくだ。誰だ? お前」
マオも助けてもらいながら言う言葉は直球だ。

「なんだ。結構意思の強いコだったんだね。
てっきり何か人質にされて脅されてるのかと……君ひとりでも大丈夫とは思ったんだけど一応見てみぬふりも出来ないから」
剣をさっきの野次馬の少年と合わせながらもキーリは陽気な声で応答した。
あっという間に少年を切り伏せたキーリは振り返ってマオを見る。
「はじめまして。お嬢さん? 俺はキーリ」
蒼い清浄なる光の灯る目がマオの紅い宝石のような目と重なる。
「俺レアな生き物って大好きなんだよね。
だから絶滅危惧種のエルフをこんな目に合わせるなんて怒ってるんだ。……このオークションは明らかに異常だよ」
ぐっと力を込めて剣を握り、次の相手へと向かうキーリは怒気が伝わってくるようだった。
「レア? ……生ということか? どっちかっていうと我はウェルダンの方が好きだが」
それは肉の話である。

「わわぁ!!」
 今度はキーリの前方から声があがった。瞬間、青白い焔が上がっていた。
「同じブルードラゴンが困ってるってくれば助けないわけにはいかないだろ?」
ゲフっと焔を吐き終わったらしい、ヴァイオレットも駆けつけた。
「げ。同属!!」
叫んだのはリコレッタだ。
「俺の連れ、……ブルードラゴンのヴァイオレットだ」
ニコニコとなみいる敵を打ち負かしながらもキーリは紹介した。
母親のことで嫌悪感があるのか、リコレッタは明らかに嫌そうな顔をする。
「リコ。違うものだよ。モンスターでも人でも一匹一匹は様々だ」
ヴァイオレットを見るなりマオの影に隠れたリコレッタにマオはそっと諭す。

「我はエルフなぞではないが、協力感謝する」
マオはそういうと魔力を右手に溜めだした。
もちろんその間も二人は周囲に気を配ることを忘れてはいない。
次々と向かってくる相手を二人は容赦なく地面に沈めていく。
キーリの出現に一瞬引きずられていた観客達だったがたかが少年一人増えただけだと多くの観衆は楽観し、徐々に再びマオを捕まえようと躍起になって迫ってきていた。
「エルフじゃないのか? その耳は種族の特徴だと思ってたのに。変だね」
迫ってくる女に剣の持ち手で一撃を与えるとキーリは剣を中段に構える。
「確かに我の耳は尖っておるが……エルフなどではないと思うぞ」
マオも後ろから羽交い絞めにしようとする男を軽い身のこなしで除け強烈なキックでぶっ飛ばした。

 マオは自身がどんな種族に当てはまるのかは考えたことが無い。
ただモンスターだということは圧倒的な力を持っていたからわかっていたが。
本でエルフというのを見かけたこともあるがエルフと呼ばれる者たちは主に平和主義で争いごとなどめったにしないと書かれていた。
マオとは正反対なその生き物にマオはさして興味を惹かれることも無く自身がそれに似ているといわれて初めて気がついたぐらいなのだ。

 そうして二人と二匹。
背中を合わせて戦ってみれば互いにスムーズに欲に目のくらんだ観客達をやっつけれること……
特にマオとキーリは初めて会ったばかりだというのにまるで戯曲でも踊っているかのような優雅な戦闘風景だった。
サポートも完璧だ。
行く手を阻むように左右に分かれてリコレッタとバイオレットが蒼い焔を吐き、マオ達がそれぞれ1対1の戦闘が出来るようにと他の多くの観客達を容易に近寄れなくしていた。

「ねぇ……君の名前はなんていうの?」
剣を振りかぶりながらキーリは問う。
「我か? 我は皆からマオと呼ばれているぞ」
「呼ばれている? 名前じゃないのか?」
「我には名前や種族なぞ存在せん、ただのモンスターだ。
……そんなことが気になるとはリコレッタといい、他人とは不思議なものだな。」
「そうかな。君、変わってるね?」
変わってる=変人などと言われて喜ぶ輩はめったにいないだろう。
マオは少々不機嫌になったようだ。
もやもやをぶつけるべく、向かってくる人間に向かって高速で回し蹴りを放つ。
「……ハッ。……そんなに大した問題じゃないだろ。
そして、こっちで貴様の竜と一緒に戦ってるのがリコレッタだ」
はぁいとリコレッタは青白い焔を観客に浴びせながら手を上げて返事した。
「さて。そんなことより、準備はいいな。そろそろ行くぞ」
徐々に右手に集めていた魔力をマオは次の瞬間解き放った。
 
――猛烈で苛烈な一撃だった。
それは灼熱の温度をまとわりつかせながら人垣の中へ一直線に猛進する。

マオ達を取り囲む人垣はその一撃で一気に崩れた。
衝撃を受けて観衆は、さっきの攻撃が当たって倒れこむ者、逃げ出す者、おびえて硬直している者など様々な態度に変化していた。
そこかしこで人々は痛みの悲鳴をあげていた。
もうマオにはむかおうなどと勇気のあるものなど一人もいないだろう。
辺りには恐怖が……魔が充満していた。
「ああ。爽快だ。さて。今のうち早くいくぞ、リコ」
マオの右脇で飛んでいるリコレッタを急かして2人と2匹は人垣が崩壊した道を走り抜けた。
途中、当然のごとくマオは魔を自身に取り込みながら走ったので彼女の体は淡く光輝いていた。

「やっぱり君。変わってる。本来エルフなら魔など取り込まなくても生きていけるだろう」
「だから、我はエルフではないと言っているだろ?」

なおも言い募るキーリにマオはあいかわらず魔を取り込みつつ走りながら答える。
「一度エルフの森へ行ってみるといい、きっと何かわかると思うから」
「我の行く場所は我が決める。貴様に我の行く先を決められるいわれなどないはずだ」
少しむっとしながらマオは喋る。
それを見て少々肩を落としながらキーリはなにやら自己弁護を始めた。
「いや、迷いエルフを正しい道へ導くのもレアモンスター好きの俺の役目というか宿命だと思うんだ。
それに君のこと気になるというか、気に入っちゃったっていうか……
君が俺の心に住み着いちゃったっていうか……なんていうか……その……
レアモンスターが欲しいというか……それに似たような感情が……
でもそれとはまた違う感じで俺の心にジャストミートってかんじで……」
後半は蚊の鳴くような声で俯いて喋るキーリにマオは理解が追いつかず少々苛立ったようだ。
「ごちゃごちゃとうるさいな。纏めて簡潔に言え!」


「好きだ!」


「……だからどうしたというのだ?」
必死で言い切ったキーリに対して一言。一言である。
バッサリとマオは平然となんの動揺もなく返した。
キーリは出鼻を挫かれたように呆然とマオを見ている。
もちろんその間には顔が赤くなり、心臓がドキドキ胸をせわしく叩き……
キーリはかつて無いほどに緊張しているのだが。
「好きとうのは人間どものいう好意のことだろう? 単なる好感度がよいだけだ。
それくらい我でも知っておる」

「マオ様……予想通りというかなんというか見事にやっぱりここでも交わしますか……」
それを隣で飛びながら聞いていたリコレッタはポツリとそう溢した。
「マスター……哀れすぎる」
ヴァイオレットもそれを肯定するかのようにため息をついた。
「なんだ? 二人とも? ……リコ。あっているだろう? 好きとは確かそう辞書にのっていたぞ」
「確かにあってるといえばそうですが、この場合の解釈はちょっと違ったものなのでは?」
「ふぅむ。どう違うというのか? リコレッタ。簡単に我にも分るように述べよ」
「だから……その、結婚して欲しいという意味……は飛びすぎかしら? えと……その……だから夫婦になる前準備として見て欲しいってことかと」
「ふむ。なるほどモンスターでいうツガイだな。そうならそうと初めからそう言えばよいのに」
理解できて嬉しいのか明るい表情になったマオはさっきまでの怪訝な雰囲気を綺麗にひっこめた。
「で、結果は?」
聞いてはいけないことほど他人は聞きたいものである。
リコレッタは今まで浮いた話の一つも無かった自分の主がどうなるのかと心配半分興味半分で聞いた。
「あ。返事は別に今じゃなくても……」
答えを聞く勇気がないのか、急に臆病風を吹かせたキーリは言いよどんだ。
が――

「もちろん。いらぬ。ツガイなど我には必要ない」

予想どおりというか見事予感の的中したリコレッタはやっぱりと声をあげ、少々嬉しそうだった。




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