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「……はじめから殺すほどの血は私には必要ないと言っていただろう?」
倒れていたエドワーズは唐突に喋りだした。 「エドワーズ!! 血が……、大変っ!!」 ルシアはこの光景にさっきまでの怒りが吹き飛んでしまったのか、エドワーズに駆け寄った。 エドワーズはゴホゴホっとむせ返る血の匂いの中で彼は倒れていた姿勢から起き上がろうと頭をもたげた。 「マオ」 咎めるような硬い声を出したのはキーリだ。 その光景をまるで虫けらのようにマオは見ているようだったから。 「うるさい。……リコが死んだと思ったんだから仕方なかろう」 「マオ様……リコを心配してくださったのですね」 リコレッタはマオの腕の中でほんわか嬉しそうな顔をした。 「ああ。リコレッタ……良かった、生きていて」 「マオ、これで何でも殺せばいいなんて思わなくなっただろう?」 「……。いいや……我の大切なものを壊すやつは我は決して許さない」 きつい眼差しのマオの目がエドワーズに向けられる。 「リコレッタをこんなにもボロボロにした罪は重い、その罪をやはりお前は味わわなければならないだろ」 「マオ、やめるんだ! これ以上哀しいを増やしてどうするんだ!!」 ストップをかけたのはキーリでマオを丁重に壊れ物でも扱うように抱きしめた。 「キーリっ!!くそっ、離せ」 暴れるマオをキーリは必死で抑えた。 「マオ様! リコレッタももういいです。復讐なんかして逆にマオ様が黒く染まっていく方がリコレッタは哀しいです」 リコレッタはマオの瞳から流れ出た涙をその小さな手で拭うと 「それに私は平気でしたし……」 とニコッと笑ってマオの頬にキスをした。 「リコ……!」 その言葉に瞳を閉じてマオは辺りにあふれ出る魔をようやく収めた。 ぽっかりとマオの放った魔球によって開いた天井からは明るい日差しが戻ってきた。 「今回だけだぞ。次はないと思え、バンパイアよ!!」 そういうとマオはリコレッタを抱きしめて閉じていた扉をこじ開け、すっとどこかに消えてしまった。 残されたキーリは静かに語りだす。 「それでお二人さん、喧嘩の原因は解決したのか」 多少苦しそうにしていたエドワーズだったが、今なら冷静になっているルシアと話が出来ると思って一生懸命に語りだした。 「ああ。それについてなんだが、私はペットショップの娘さんには手は一切出していない。あれは隣村の男と駆け落ちしただけの話だよ。それを私のせいに無理矢理捏造されただけだ。ルシア」 「なんですって。……私、てっきりエドワーズが……」 へなへなと座り込むルシアを見てキーリは今回のあらましをようやく理解した。 「なんだ、ただのカップルの痴話げんかだったのか」 はへーっと同じくルシアに命を狙われていたヴァイオレットはキーリの肩にのってポツリとつぶやいた。 「まったくいい迷惑だったな」 「そうだね。マスター」 「ああ、君達にも凄く迷惑をかけたようで申し訳ない」 「ごめんなさい。竜さん。私の私欲のために狙ってしまって」 「そうですね。もう貴方達には竜の血は必要ないみたいですしね。 そもそも竜の血で願いがかなうなんて迷信ですよ」 「そうかな。私はルシアとこうしてまた仲直りできたから、竜の血さまさまだと思っているが」 「……げっ。また俺の血を狙っているのか?」 エドワーズのその言葉にヴァイオレットは警戒態勢をとった。 「いや、もう私にはそんなもの必要ないがね」 「ええ。そうね。私も。ごめんなさい、竜さん」 しゅんと謝る二人にヴァイオレットはふっとため息をつき、しょうがないなと笑った。 「さ。じゃぁ、報奨金貰ってさっさと行くか。ヴァイオレット」 キーリはしっかりと金銭の要求をするとエドワーズからはゴホっと咽たような声が聞こえてきた。 「そのことなんだが、どうやらあのお嬢さんが屋敷を半壊させていっただろう? その屋敷の修理代としてそのお金は飛んでいってしまいそうなんだ」 「そうね。かなり大々的にリフォームしなくっちゃ駄目ね」 ルシアはこういうときになって急にエドワーズの味方をしだした。 「……つまりは?」 キーリは呆然と次の言葉を待った。 「報奨金は無しだ。館を壊していったぐらいなんだからむしろ賠償金をこちらに貰いたいぐらいだ」 「なんだとーー!!」 キーリは泣きそうな声で叫んだ。 「まぁがんばれ、勇者志望なんだろ? だったらこんな細かいことでメソメソするんじゃない」 「俺の金がぁ!! ああ、せめて、そうだよ! 猫はどうなったんだよ! ペットショップの娘さん宅の猫!」 「は? 猫だと? ああ、多分娘さんが大層可愛がってたらしいし駆け落ちに一緒に連れて行ったんじゃないか?」 「そんなぁあ!!」 キーリはポツリと寂しくその場に立ち尽くした。 もう懸賞金になんか騙されない! キーリはそう強く思ったのだった。 |