「よ……用事ならまだ終わってません!」
意外にも負けじとルシアは言い返した。
「ほほう。この我にたてつこうなぞ……面白いではないか」
ははっと軽くマオは笑う。
「申してみよ」
続きを促すマオにルシアはいいにくそうに言葉を紡いだ。
「……こ……コチラに……バンパイアはいらっしゃいませんか?」
やっと紡いだ言葉にマオははて?と首をかしげた。

「……? バンパイアとはなんだ? リコレッタ」
リコレッタは毎度のこと待ってましたとばかりにどこからか辞書を咥えてきてマオに手渡す。
同時にリコレッタの魔力でページが自動的にめくられ固定される。
「バンパイア。別名吸血鬼と呼ばれているそうです。
1.人の生き血を吸うというモンスター
2.無慈悲に人を苦しめて利益をしぼり取る人間
とありますが、この場合は1のことでしょう」
学者のように解説するリコレッタは少し賢そうに見えた。
「ふむ。世界には不思議な生き物がいるものだな」
「そうですね。特にマオ様だとか」
納得するマオ達にルシアは置いてけぼり状態にされて右往左往していた。

「あ……あのぅ〜、それで貴方もバンパイアなんでしょうか?」
言いにくそうに問い詰めるその声でマオはやっとルシアの存在を思い出したようだ。
「何故そう思うのだ? ――言っておくが我は我であって何者でもないぞ」
さらりと否定するマオにルシアはでも、と言い募る。
「バンパイアの耳は尖っています。それに今は見えませんが血を吸う為に犬歯が発達しているとか。あなたの耳はそれに該当するではありませんか?」
「ほほう! それは初耳だ。今までエルフとは言われたことはあるが違っておるし……
そうか、我はバンパイアだったのか」
それは楽しみにしていたお茶会が前倒しに急になった時のような心境でマオは驚いた。
――もっともマオはお茶会など誘われぬ限りしないが……
「違いますよ。見てください。人間の生き血を吸わなければいけないんですよ? マオ様はそれに該当しません」
「そうなのですか!?」
「なんだ……つまらぬな」
しょぼんと二人二様にルシアとマオは落ち込んだ。

「疑問は解決したでしょう? さぁ、出てってください」
リコレッタはけっと悪態をつくとさっさとルシアを追い出そうとルシアの眼前に飛んだ。
「そ……それではここは東の森ではないのですね?」
やっとルシアは本調子になったのか確認するかのような問いかけにああ、なんだ……と思ったマオとリコレッタだった。
この人間の女は魔王を倒しにきたわけではなく……

「迷ってたどり着いただけか?」
「そうみたいですね」
「……すいませんが、東の森とはどちらでしょう?」
汗を大量に流してルシアは聞いた。

「そもそも東の森と魔の森を間違えるか? 全然攻略の難易度が違うのに……」
はぁっと音が出そうなくらいため息をつくのは某廃城の主、マオである。
「本当ですね。一体どこをどう勘違いしてここまで来たんでしょう?
東の森の難易度は2! この魔の森は10だというのに」
まさにミステリーとリコレッタは軽く野次った。
本当にどうやってきたんだ、この人間の女、ルシアは……マオはひたすら頭を悩ませた。
が、その謎は永遠に解けそうに無い。
「おい、東の森に行くならとっとと行けよ? ルシア」
既に東の森の位置を説明してあるのでマオはそれでルシアが勝手にいなくなるものだとばかり思っていた。
「……魔王様。お暇そうですね」
右手で頬杖をついて足を組み、行儀悪く玉座に座るマオを見てルシアはそうつぶやいた。
「ああ。暇さ。お前と相手しているのさえ、我は暇なのだ。だからとっとと……」
「「魔王様!」」
ぴしっと人差し指をマオに突きさせそうな勢いで向けてルシアは言った。
「よければ、ご一緒しません? バンパイア退治」

「何ですって人間。マオ様がバンパイアごときの退治など……」
リコレッタの反応はこうだ。ルシアは明らかに反感をかったらしい。
だが、マオは僅かに興味をくすぐられたらしい。
「――詳しいことを聞こうか?」
とりあえずは聞いてもらわなければ始まらない……とルシアはそれはそれは熱心にバンパイアの話をしだした。

 ルシア曰く、
 彼は美女を見ると手を絶対に出さずにはいられない性格をしているだとか、
普段はガツガツしてないように装っているが人間を襲うときだけ獰猛な本性をさらけだすとか、
日曜日の神への礼拝の時は絶対姿を消すとか、
彼の苦手なものはピーマンだとか、趣味はアリの観察だとか、得意料理は肉じゃがだとか
Hな本の隠し場所は書斎の机の一番下の引き出しにあることとか……

「ちょっと待て。何故にルシアがそのバンパイアの得意料理や趣味やら知ってるんだ?」
マオはその勢いに少々飲まれながらも端的に感じた疑問を口にする。


「――だって。幼馴染ですもの。
彼、東の森に引っ越す前私の家の向かいに住んでたの」

それは重大な事実だろう。
最初からそう言えよとマオは無性に突っ込みたくなった。
「で、なんでわざわざ退治するんだ?」
「そうですよね。幼馴染なんでしょう?」
とはリコレッタの声。
「それは……」
「「それは?」」
オウム返しに問えばルシアは笑ってこう言った。
「私がつい先日聖職者になったからですわ。過去の清算をしに行こうと思いますの」
普通の人間なら一瞬ぞくっとする笑みでウインク一つ飛ばしたルシアはさぁ、どうするのと聞いてきた。
もちろんマオ達はびくともしないが……
「ふむ。どうせ暇だしな」
「マオ様、まさか……」
マオの言動から察してリコレッタはまた自分が苦労することになると本能的に感じたようだ。
「行くぞ。リコレッタ。バンパイア退治とやら、存分にしてやる」
「マオ様、やはりそうきましたか……」
動揺して飛んでいた高度を下げたリコレッタを見てルシアはフフッと上機嫌に鮮やかに笑ったのであった。



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