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「……ああ、愛しのマオと会いたい……なぁトーレスカで1年修行するっていうのは無理かな?」
はぁとため息をつきながら公園のベンチでポツリとキーリが漏らすのは想い人ならぬ想いモンスターのことだ。
「マオのことは諦めなって、な? 勇者になるのなんかマスターにゃ無理なんだから」
ジュジュウとストローで最期の一口を飲みほしたヴァイオレットは紙容器をゴミ箱に捨てるべく、広場のゴミ捨て場へと軽く飛んだ。
「てぃ。……あ。外れた。ちっ、全くめんどくさいな」
傍に落ちている紙容器を拾い今度は確実に入れたヴァイオレットはやれやれといった様子でキーリの近くに着陸する。
「来る日も来る日も俺の周りにはむさい男のヴァイオレットだけ。
これじゃ、花がないぞ。花が! もっと華やかで素敵なレアモンスターとかいないのだろうか。
例えばマオみたいな……いや、マオはレアモンスターであって、女の子だ。モンスターが好きなわけじゃなくてマオが俺は好きだぞ。うん」
 キーリの実情など誰も知らないのにやたら肯定する少年にヴァイオレットはこの先こんなので大丈夫なのだろうかと心底心配した。

 ここは東の森から近い、レモンサーガの村だ。
人口100人ほどの小さな村だがその公園では無邪気に遊ぶ小さな子供達がたくさんいる。
そんな公園のベンチに日に当って眩しく反射する金の髪に清浄な光を映す蒼い瞳、青年期にさしかかりかけの成長途中の体というこれからさらに美形になるだろうという要素がたくさんつまった容姿をした少年、キーリはいた。
世代の少し違う少年に周りの子供達は気づいていたがなんだか近寄りにくい雰囲気にそこだけぽっかりと穴の開いたように人気がない。
ペットのモンスターを散歩させる大人たちも初めは見慣れない異端者にやや顔を歪めて警戒していたがヴァイオレットとの微笑ましい光景にやがて安全だと認識したのか見向きもしなくなった。

「あ。犬だよ。マスター」
「残念。猫には反応するんだが、犬には興味は全く無いんだ」
「そうか」
主のわがままっぷりにヴァイオレットは少々呆れたがこれが平和というものだと実感していた。
「さぁ、マスター。そろそろ行くよ? いくら宿屋がすぐに見つかったからってじっとしていたら修行にならないじゃないか。この村の剣術道場でもいって、道場破りでもしたらどう? たとえマスターが負けてもそれなりの経験値になると思うよ?」
にっこりと笑ってヴァイオレットはキーリを修行させる作戦を考案する。
だが、
「この村の道場? それよりペットショップ行って猫をみたいなぁ」
うっとりとさせながらキーリは呟く。
その言葉を存分にかみ締めニヤリと笑ったあと、ベンチからパッと立ち上がるとキーリは言った。
「そうだ! そうしよう」
「ま……マスター、修行は」
「そんなの後々。へへ。久しぶりのおにゃんこ様〜」
キーリはフラフラとペットショップへ向かうべく歩き出した。
キーリがこうなると誰にも止められないらしい……というのは旅経ってからヴァイオレットが一番初めに学んだことだった。
「マスター!」
ヴァイオレットはそんなキーリの後をやれやれと追って飛び立った。

 途中、村人にペットショップはどこだと正気を失ったかのような顔で聞き、なんとか二人はこの村のペットショップまでたどり着くことができのだが。

「休業日だと? 嘘だろ!?」
泣きそうな素っ頓狂な声をあげたのはキーリだ。
青い屋根のわりと大きなこの村のペットショップは暫く休みますと一言書かれた張り紙を残し、グレーのシャッターが完全に閉まっていた。
「ははは。マスター、運ないなぁ」
ゲラゲラとヴァイオレットは笑う。
「んなばかなぁあ!!」
「ま……マスターちょ、はーなーしーてくださーいっ!!」
ブンブンとキーリはこのくやしさをぶつけるべくヴァイオレットの首を握り、上下に烈しくシェイクした。
「ぐふぅ。……胃の中のものがで……出るぅ。ゲフッ」
キーリはやや不満が解消されたのか宿屋に戻ると一言言い残しヴァイオレットを置いて村を歩き出した。
「まっ……てよー。マスター!!」
バサバサと翼を奮い立たせて慌てて後を追いキーリにやっと並んだ、ヴァイオレットに風に飛ばされてきた紙の攻撃という更なる悲劇が襲う。
「ぶ!! ブハッ、ま、マスター。前が急に真っ暗に!」
「? なんだ? これ」
べりっとヴァイオレットから紙を剥がしとり、キーリはさっと目を通した。

「――レモンサーガの村ニュース
先日から休業しているペットショップですが、その原因は店長の娘でありこの村一番の美女と名高いアイルさんが東の森に住むといわれるバンパイアに襲われさらわれたからであります。
なお、アイルさんが飼っていたルイード産の猫(総額1600G相当)も行方不明になっており事件に関連があるものとみています。
何か事件に関連することを知っている方は今すぐ最寄の警備隊立ち寄り所までご連絡下さい。」

「へぇ。この村一番の美女だって? ……マスター?」
ニュースを真剣な目で見つめているキーリは今までに見たこともないぐらい真摯な顔をしていた。
「ルイード産の猫を助けに行くぞ。ヴァイ」
「え? 猫……をですか? 女の人じゃなく?」
「そんなのついでに決まっているだろう? 俺は当初の目的どおり猫を見に行くんだ」
きっぱりと言い切ったキーリはきっと女の敵だろう。
「でも、バンパイアが……」
「け。バンパイアごときが俺の猫に対するパッションを邪魔できるとでも思うなよ」
ものすごい意気込みである。
「倒すんですか? バンパイアを? マスター、魔王を倒しに行くんではなかったんですか?」
「魔王は強すぎる……。今ははっきり言って無理だ。自信が無い。
マオには待っていてもらうしかないだろう。だがいづれは倒す!!
……しかし、バンパイアごときなら倒しまくって猫を奪い返すぐらい朝飯前だ」
「知りませんよ? そのバンパイアが魔王ぐらい強くっても」
ヴァイオレットは不満げだったが一応主人を心配した。
「魔王を倒す為の訓練だと思えばなんてことないさ」
自信満々に言うキーリの笑顔はとてもいい表情をしていた。
「さぁ、まずは宿屋に行って、明日の為に飯をたくさん食べるぞ。ヴァイ」
「わかったよ。マスター」
いざとなれば自分が助ければいいか、これもマスターの修行の旅の一環だとヴァイオレットはキーリとバンパイア退治に着いて行く事にした。



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