――翌日。
まずは情報収集からだ。
という訳でキーリは村周辺で聞き込みを開始した。

 開始したのはいいものの……
「バンパイア、エドワーズ様を倒そうなんて許せないわ!」
「全くよ。ちょっといい顔なだけのアンタなんかにエドワーズ様は倒されたりなんかしないわ」
どうもこうも村の女達はバンパイアに味方なかんじだった。
しまいには、
「エドワーズ様を悪く言う奴はあたしが倒してやる――!!」
とキーリは複数の女達から襲われかけた。

 そうして苦労して学んだことはバンパイアの名前はエドワーズというらしいこと、女の人に妙にモテまくってることだけだった。

「とんでもない村だな。バンパイアを肯定するなんて……」
「そうですね。マスター。女の人って怒ると恐ろしいですもんね」

 キーリは今までなんとなくその辺を歩いていた女の人ばかりに聞いてしまっていたので、今度は仕事をしている村の男達の話も聞いてみようと思った。
ちょうど畑仕事を生業とするおじさんをみかけたので声をかける。
「すみませーん。東の森に住むと言うバンパイアについて聞きたいのですが?」
「なんだね。あんた? 旅人かね」
「バンパイアについて聞かせてください」
「!!」
おじさんは目をこれでもかというほどカッと見開いて少年を見つめた。そのまま瞬きを数回。
ようやくちょこっと落ち着いたらしいおじさんはゆっくりとバンパイアについて教えてくれた。
「……け。あのバンパイアのことかぃ? ……何でも物凄い美形で、今じゃ襲われることは村の女達にとって一種のステータスになるとまでされておるらしいぞ」
「はぁ。凄いですね」
目をしばたいてキーリは言う。
「だろう? わしの娘も妻も、何時の間にか奴に支配されるかのように毎日その話ばかりでわしゃー身を縮めることしかできんくてのぅ〜。全く恐ろしい話じゃ」
おじさんものってきたのかゆったりしたと話のペースだが、ところどころ怒りの心を込めているのかどんどん大声になっていく。
「そういえば、バンパイアって森に住んでるんですよね。なんでこの村まで伝わってきてるんですか?」
とはヴァイオレットの言葉だ。
「それが、散歩に時々くるんじゃよ。この村に……ああ、恐ろしい、奴の姿はいつも村の女達で埋め尽くされて遠目からも見たことはないが……はぁ。これ以上村人を襲わないでくれたらいいのに」
その言葉にキーリははっとした。
「今までの被害は今のところ何人なんですか?」
「一人じゃよ。ペットショップのオーナーの娘さんだけじゃ。とっても綺麗な女性でのう。わしがもうちょっと若かったら……」
「そうですか。ありがとうございました」
まだ何か言いかけているおじさんを制して、軽くお礼を言ったキーリは一旦食事を取りに食堂兼宿屋になっている店に戻った。
今日の日替わり定食を注文するとキーリはあいている席に座った。

そのときカランっと入り口のベルが鳴る。

その青年が入ってきたとたん、店の中にざわめきの波が一気に走る。

 誰か入ってきたのかな?とキーリは思ってみると随分と目立つ青年が入ってきた。
後ろで軽く縛った紅い髪に紅い瞳……その色はマオを連想させる色だ。
背は高く、日に焼けることなど知らないかのような白い肌、すらっとしたスタイル。
一流の職人が作った石膏像のような完成された顔、そしてその耳は人間ではありえないほど尖っていた。
――エルフ族か? キーリはマオと同属ならば納得だとうんうんと唸っていた。
 青年はキーリを見つけるとまっすぐにキーリ達のテーブルに手をついた。

「すまないが、バンパイアを倒すとかほざいているのは君のことかな?」
問う青年の鋭そうな犬歯がチラリと見えた。
「どちら様ですか? ……エルフ族さんがこんなところに現れるのは珍しいですね?」
青年はフッと美形な顔の口角をあげた。
「座っても?」
「どうぞ」
キーリは軽く了承を表すと青年はキーリの向かいの椅子に腰掛けた。
「マスター、妖しいですよ!!」
警戒するヴァイオレットにそうか?とのんきにキーリは返した。
「バンパイアの特徴さえ知らないその様子だと多分大丈夫だと思うのだが変に誤解されてバンパイア退治などと騒ぐ輩じゃないかと思ってね。……一応不安の芽は摘み取っておく主義なんでね」
「? どういうことですか。その前に貴方誰ですか?」
その一言に青年は何故か笑い出した。
「ははっ。すまん。そうか、私のことを知らんか。そうだな。それでこそ旅人だ」
「用がないなら帰ってくれませんか?」
女の子ならばまだ華があるので我慢できるけれど男が固まっていても全然楽しくないとキーリは付け足した。
「そうだな。それには同感だ。私はこの村で噂になっているバンパイア、エドワーズだ」
フフっと青年エドワーズは名乗った。
バンパイアと聞いたとたん、キーリにとって思い出すのは猫のことだ。
にゃんこ様が行方不明……そして目の前のバンパイアの家にある可能性が高い。
そう思うとキーリは反射的に少々険悪なムードを放出したが、相手が名乗ってきたのでそのままじっと黙っていることも出来ずキーリはぶっきらぼうにとりあえず自己紹介をし返した。
「キーリです。一応勇者を目指しています」
少々にらみをきかせすぎたか?エドワーズは少し黙って何かを考えているようだ。
「……ふむ……勇者か……? 大層な趣味だな。そんなものに価値があるとは思えんが」
見下したようにエドワーズは言う。
それには同感だったキーリは迷うことなくさらに述べた。
「俺も価値など関係ないと思っています。ただ手に入れたい人がいるから。それだけです」
きっぱりと言うキーリにエドワーズは少々面食らったようだ。
ほうっと開いた口の形がそう主張していた。
「……随分熱烈的なもんだ。そんなにその人間がいいのか?」
「彼女は人間ではないけれど……彼女の為にならなんでもやれそうな気がします」
真剣な目で説明するキーリの目はまっすぐだ。

「……プ。……ハハハハハ。……おもしろい奴だな。お前……」
エドワーズは急に大きな声を上げて笑い出した。
周辺で密かに見守っていた食堂の客達も何事かと思って耳をそばだてている。
村の噂の主でもあるエドワーズがいる光景だけでも珍しいのに。
さらに笑っているというこの光景は人に興味を抱かせてしまうものらしい。
何故か急に友好的になったエドワーズにキーリは戸惑った。
「ああ、可笑しい。いや、悪い。
……いいや、悪くない。悪くないぞ。人間。ああ、キーリと名乗っていたな」
エドワーズはキーリに向かってポンと肩をワンタッチすると
「君になら我が家である用件を任せられそうだ。
なにせ、勇者希望だろう? だったら少しはボランティアしてもらわないとな」
「俺はボランティアは一切しませんよ。
彼女の為だけに魔王を倒そうとしているだけですから」
間髪いれずにキーリは当然とでも言いたげに逃げにでた。
「ならば、礼金を出そう。雇い主はこの私。なに、ほんの2000Gでもいいか?」
「2000G!!」
さらりと提示されたその額にキーリは喜びを全身で表した。
「あ。マスター?!」
操縦不可能になりかけていると直ぐに察したヴァイオレットだがすでにもうどうにもならなかったらしい。
「是非雇ってください!」
きっぱりとキーリはこう言った。
「ああ、契約条件すらもきかずに、マスターったら」
ヴァイオレットはいつものキーリの大暴走に大汗が流れ出ていた。
「なに? ヴァイ。バンパイアのお屋敷でのお仕事だなんてひょっとしたら、猫に会えるかもしれないだろ? 猫と戯れれて、まさに一石二鳥!!」
キーリはそうつぶやくとルルルーと鼻歌まで歌いだした。


「……バンパイアを倒すんじゃなかったんですか?」
ボソリと不満げにヴァイオレットは呟く。
「なに、困っているバンパイアを助けるのも勇者の仕事だよ」
楽天的にキーリはそう言い切ったのであった。



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