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「キーリは旅してたんじゃなかったのか」 マオは単純な疑問をキーリにぶつけた。 「旅してるよ? 次の目的地のシヌルバまでに休憩をと思ってこの村に立ち寄ったんだ」 キーリはマオと出会えてよほど嬉しかったのかにやにやしっぱなしだ。 「ところでさっきの子、マオのこと魔王だなんて勘違いして呼んじゃって。いいの? そのままで」 「我の呼び方などどうでもよいと前に言ったではないか。それにしても、キーリこそバンパイアの屋敷にいることないだろう?」 「いや、ここに来たのはなりゆきっていうか」 「マスターの汚い金欲のためです」 見事なつっこみをいれたのは小さな蒼い竜ヴァイオレットだ。 「まぁ、下劣な主を持つと部下まで腐ってきそうね。ヴァイオレット」 その声に反応したのはヴァイオレットと同種のリコレッタである。 「リコレッタ?!」 何が不満なのだろうとマオは心配げに声をかけたが…… 「なんだと!? このババア! 俺にそんな口をきいていいのはマスターだけだ! この前助けてやったのを少しも感謝してないだろ」 ヴァイオレットはリコレッタの挑発に簡単にのってしまった。 「こら、ヴァイ。なにそんな気を立ててるんだよ?」 キーリはヴァイオレットをなだめようとぽんぽんとヴァイオレットの頭に触れる。 「助けなんていらなかったわよ!マオ様と二人であんなことぐらい切り抜けられたわ」 「リコレッタも。落ち着け?」 何が何だかわからないがまずいことになりそうだなとマオは思っていたがそこまで慌ててはいない。むしろ、二人が興奮状態になって魔が満ちてくるのを期待しているかのような口ぶりだ。 「マオ様、こんな下劣な人たちになんかにマオ様に口なんか聞くだけ無駄というものですわ。ルシアも送り届けたし、行きましょう?」 リコレッタは冷静だった。 このままここにいたらつまらない喧嘩なぞしなくてはならないと瞬時に頭が判断したのだ。 「いや、肝心のバンパイアの姿を一目だけでも見てからと思ったんだが……」 マオはそれを面白くなさげに答える。 「マオ様には必要ありません」 「見せてやれよ。リコ。そこまでお前に主人を止める権限はないはずだ」 口出ししてきたのはやっぱりというか主人に頭を撫でられ続けているヴァイオレットだ。 「まぁ、リコですって!! 何勝手に呼び捨てにしているのよ!! この間はまだ生意気な口聞いているのを許容していましたが、私のほうが年上なのよ? 敬いなさい」 「たかが、一つか二つだろ? 俺、こうみえても600歳ぐらいなんだぜ」 「600!! わ……私は602よ! ほら、私のほうが年上!!」 600年も生きていたら2ぐらい大したことないだろうにとマオとキーリは同時に思った。 「ぐらいって言っただろう? 正確には数えてなかったから俺もそんくらいの誤差はあると思うぜ」 「まぁ、ああいえばこういう!! マオ様、許可をください。この生意気なブルードラゴンをしばき倒してやるわ」 人間の姿から子竜の姿に変身を解くと、ゴゴゴと蒼白い焔を上げリコレッタは威嚇した。 「ははは。リコレッタもヴァイオレットも楽しそうだな。いいぞ、許可する。思う存分やりあえ」 ついに始まったとマオは内心思いながらもまぁしょうがないかと笑う。 「ありがとうございます!!」 リコレッタは蒼白い焔を吐いた。 「って、わぁ!! いきなり焔を吐いてくるやつがいるか。竜族どうしの決闘はもっと……」 「うるさい、焼き尽くしてマオ様に極上のブルードラゴンの肉をプレゼントしてやる」 「同属を差し出すっていうのか!? くっそ……こうなったら俺もやるぞ。いいなマスター」 リコレッタに差し迫られてヴァイオレットも苦渋の決断をしたようだ。 「いいぞ。ただし、俺達のところに近寄るなよ?」 仲がいいなぁと決して口には出せないことを思いながらキーリもGOサインを出した。 「さてと、煩いのもいなくなったことだし、ゆっくり二人の世界を築いていこうか?」 キーリは二人?が部屋の四隅と端っこをぐるぐると回っているのを見ながらマオに向かって言った。 「なんだ? 二人の世界って」 「マオと俺の将来の愛の巣の話だよ」 すいっとキーリはマオの肩を抱く。 「……我に愛などという感情などない」 すぐにマオはペイっと引き剥がすとキーリから距離をとった。 「今はなくてもそのうち沸いてくるって、そういうもんだよ。愛って」 「ふむ、そういうものなのか。だが、リコレッタがこの前愛なんてくそくらえって言ってたから我は愛は遠慮する」 そう彼女は何か写真を足げにしながら声を大にして言ってたっけ?「マオ様だけは騙されちゃ駄目!!」と強く言いながら。 「いいじゃないか。試してみないと愛すら分らないものだぞ」 「キーリの言うことも一理あるな」 「だろう? じゃぁ、愛の儀式としてまず……」 そういうとキーリはマオに顔を近づけていく…… 「? なんだ」 「いいから、黙って?」 二人の顔はどんどん近づいていく。 「……マオ」 お互いの吐息がかかり呼吸音までしっかりと耳に入ってくる。マオの頬にそっと手を差し伸べ、そのやわらかさに幸せをキーリは感じた。壊れ物のように慎重に静かにキーリはマオを扱う。ドクンドクンと早いリズムで叩く心臓の音まで外に漏れて聞こえてしまいそうだとキーリは思う。瞬きをする互いのまつげの長さまでしっかりとわかるぐらい近づき、そうして二人の影が徐々に重なりあい、後指一本で唇に触れられる…… そんな時、 「……魔のニオイがする」 嬉しそうにマオは口の端をあげた。 「マオ? どうした……」 轟音がその場に響き玄関口の扉は壊された。 「なんだ? マオ?」 ふいっとその場を離れるマオにキーリは呆然としてしまった。 残されたキーリは後もう一歩、もう一歩だったのにと表情には出さなかったが、心の中では悔しさをかみ締めていた。 「おー、嬢ちゃんもその耳に紅い瞳、ってことはバンパイアかぃ? 一匹だけだと思ってたんだが……まぁちょうどいい一緒に退治してやるさ」 がやがやと複数の人間が扉に詰め掛けていた。 「誰だ? お前ら」 問うマオの目が映すのは20人ほどの武器を掲げた人間達だ。 「あ。おっちゃん」 キーリが話を聞いたおじさんも中には含まれていた。 「バンパイアがこの村を壊していくのを見るのは我慢ならねぇ。ペットショップの娘さんといい、悪は早いうちに目をつんどかねぇとって村の男達の中で話しあったんだよ!!」 「そうか……お前らはこの近くの村人達か……」 ようやく合点がいったマオはぽつりと呟く。 「待て、マオはバンパイアとは違う!」 キーリはマオがバンパイア扱いされてはたまったものじゃないと必死に否定の声をあげた。 「なんだぁ? おにいちゃんもバンパイアの見方すんのか? バンパイアの誘惑にやられたんだな。可愛そうに。後で介抱してやるから今は大人しくしとけ」 「待って、彼女は本当に違……」 「は、心底騙されちまったんだな、兄さん。よし、やるぞ」 わぁあと一斉に襲い掛かってくる村人にマオは彼らが敵だと瞬時に判断した。 マオは向かってくる大柄な男に大きく蹴りを一閃。 さらに次々とやってくる男に平手打ちをし戸惑ったところを膝で鳩尾を狙って地面に沈める。 倒れた村人の肩を踏み台にして空中に飛び上がり宙に一回転、両足を次のターゲットの首にひっかけ、その勢いを殺すことなく前へとぶっ飛ばす。 地に再び足の着いたマオは気を弱めることなく次々に周囲の敵を倒していった。 「マオっ!!」 キーリはマオに向かおうとしている村人を袈裟切りにし剣を構えた。 「なんだ、お前もバンパイアの見方か!?」 「違う! 俺はマオの……エルフの見方だ!!」 「エルフ……ははっ、バンパイアの間違いだっつーの」 キーリの必死の説得にも男達は誰一人として話を聞かないばかりかキーリにむかって鍬を投げてきた。 「わっ」 ペシっとその鍬を握ったのは手ごろなカバン程の大きさの小さなヴァイオレットだった。 「サンキュ。ヴァイオレット」 キーリはそれを期に一気に村人を攻め立て始めた。 「私もいますことよ?」 こっそりとヴァイオレットの後ろから出てきたのはヴァイオレットと同じ蒼い幼竜。 「リコレッタさん!」 「さ。マオ様もがんばってらっしゃるんだから、私達もやるわよ」 ぐっと手をだし気合を入れるリコレッタに元気に返答してキーリは再び戦場に戻った。 そうして今までマオ一人だった村人にはむかうものが二人と二匹になり戦況は一気に変化していった。 マオと違って武器を持つキーリはザクザクと村人を叩き斬る。 そのスピードには驚くべきものがあった。 |