「マオ様、大丈夫ですか?」
何時の間にかリコレッタが傍で一緒に戦っていた……とマオは感じた。
「ああ、あらかた片付いたし、キーリもいる。こっちは大丈夫だぞ」
余裕余裕とマオは言う。
「そうですか」
といい、当初、ヴァイオレットに夢中で気がつかなかった自身をリコレッタは恥じた。

 マオはキーリの戦いを遠目で見て少々驚いていた。
キーリが少しずつだが、確実に強くなっているのだ。
トーレスカ祭ではかすっていただろう攻撃が見事斬りかえし逆に相手の弱点を見抜いて攻撃していた。

「ふむ。人間とは進化するものなのだな」
「え。マオ様、何か言いました?」
「いや、なんでもない。とっととここも片すぞ」

あっという間に村人達は地にひざを着け、全員が気絶していた。
はぁはぁとその場には二人と二匹の荒い息が支配していた。
呼吸を整え、辺りを見回しマオは言う。

「ふむ。キーリは剣という便利なものを持っているんだから殺せばいいのに。何故殺さない?そうすれば起き上がってきて刃向かう者も防げる。キーリ、今のうちに殺して回れ?」
「マオ様、皆殺しは少々お待ち下さい!!」
リコレッタははっとするとマオに願い出た。
「なぜ、邪魔をする? リコレッタ。さぁやれ! キーリ」
「俺の役目は、この扉の中に邪魔者を入れないことだ。命を奪うことは仕事に入っていない」
「そうか。でも二度手間になるぞ? やっぱり早く殺して回れ?」
「嫌だ」
「何故……?」
頑なにそれを断るキーリとリコレッタをマオは理解できなかった。
「だって、勿体無いだろう? せっかく人として生きているのに」
キーリはマオをまっすぐ見上げて言う。
その返答にマオはようやく納得したようにキーリに向かって言った。
「ああ、お前が食べなくても我が食べるから大丈夫だぞ。勿体無くなんてないぞ」
だから、さぁ殺せとマオは言う。
「嫌だ」
キーリは再び言う。
リコレッタはどうやら見守ることにしたらしい。
頭を下げて地面を見つめている。
「ふぅむ。どうして、リコレッタといい、皆そこまで殺しを断る?」
マオは心底分らないとばかりに首を振る。
「……なるべく殺さないようにしているのは、命が大切なものだからだ。……マオに大切なものはいないのか?」
「大切? ……そんなものは存在しない。我こそが唯一であり、我以外なら取替えが全て効くのだから」
「リコレッタさんも……?」
その問いにマオは一瞬大きく目を見開いたが、まぶたを閉じて開けると、きっぱりとこう言った。
「リコレッタは貴重な食料だ。それだけだ。いづれは別れる。これでも我は楽しみにしているのだぞ。リコレッタを食す時が来るのを……」
今まで泳がせていたリコレッタはどんな味がするのかマオは想像するだけでよだれが出た。
「マオ様……」
哀しげに言うリコレッタはそれでも気丈にマオの顔を見上げる。
「そう、この血肉はマオ様のものです。マオ様のために捧げ、食されるのも初めから決まっていたことです」
「何言ってるんだ! リコレッタ!!」
陶酔するように言うリコレッタにヴァイオレットは信じられないようなものを見るかのような顔で叫んだ。
「最悪だな。その考え方……人も何もかもこの世に一つしか存在しないんだぞ」
キーリはマオの目を見て、真剣な顔をしてゆっくりと自分自身ににも言い聞かせるように話す。
「? 何を言っている? 人間も物もそこらにたくさん溢れているじゃないか? それの何処が違うというのだ?」
マオは何だそれとばかりに完全に否定した。
「例えば……だけど、マオが好きな俺のそっくりさんがいてもそのそっくりさんはマオのことが嫌いかもしれないってことだぞ」
「訳が分らない。なぜそこでそっくりさんが出てくるのだ」
「つまりはマオが好きな俺の命は一つ、俺だけってことだよ」
「ひとつだけ? それがどうした? 命とは消費するものではないのか? ふむ。他人とは色々なことを考えているものだな。我にはいまひとつ理解できないが……」
はぁとため息をついてマオは言う。
 キーリはマオを見て「それはとても哀しいことだね」と呟くとそれまで守っていた屋敷の奥に繋がる扉を見る。
「哀しいとは魔を発生させる生き物の妄信的な感情……なだけではないのか? リコレッタ」
「それは私にも説明しかねます。マオ様自身が感じないと分らないかと」
「そうか……それは残念だな。
哀しいは我が今まで生きた中でも感じたことなどない、なかなか体験できない感情らしいし。……まぁ他人の感情などどうでもよいからいいが」
ふと、マオもつられてこの館にふさわしい豪奢な扉を見た。
「そろそろ一緒にいたお嬢さんとエドワーズの話し合いも終わってるだろ……こんなに倒したんだ。礼金もらわなくちゃだな」
「……エドワーズ? ああ、バンパイアの名前か。それよりも、ルシアの意見も聞きたい」
二人はそれぞれに思うものを秘めて扉へと向かった。

 その時、バンと勢いつけて扉は開かれた。
「うぉ!!」
「エドワーズのばかぁ!!」
大声でそういって出てきたのは銀の髪の女、ルシアだった。
「ルシア、待て!!」
さらにルシアを追って出てきたのは左頬に紅葉の型をつけた紅い髪に紅い目の青年エドワーズだ。

「魔王様、聞いて。エドワーズったら浮気したおまけに子供まで作っちゃったらしいのよ」
「誤解だ。ルシア。私とあの女とは関係ないと何度言ったら信じてくれるんだ」

なんだなんだとマオとキーリは目をしばたかせ、このままだと騒動に巻き込まれそうだと思った。



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