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薄暗い森の奥。 魔の森と呼ばれるその森にかつては豊穣を誇った寂れた廃城がある。 しかし、今やその門扉は難く閉ざしており、侵入者をことごとく拒んでいた。 誰もが見捨てた廃城の城主は不気味な力が備わっているとの噂は矢のように飛び広がりやがて彼女は魔王と呼ばれるまでになった。 燃えるような紅い瞳に輝く長い黒髪、尖った耳に意思の強そうな顔立ち、やや幼さを残した頬。 城の美麗な主、マオは今日も行儀悪く王座にお供のリコレッタとともに座っていた。 「マオ様……先日の戦争についてなのですが、魔王が戦のうちの片方の味方をしたと噂が出回っているようです」 愁傷な様子で告げる小さな竜、リコレッタのその心はまたマオ様の悪評が広まると悲しんでいた。 「そうか」 たんたんと胡坐をかいて顔に手を添えたマオは特に興味もなさそうに返答した。 「そうかじゃありません! 何故あの時きまぐれに魔力を放ったりしたのです!! ご自覚下さい! あなたはたくさんの命を奪ったのです!」 叱るような口調のリコレッタにあいかわらずぼーっとした調子のマオはだからどうしたとやはり平坦な声で告げた。 「マオ様はもっと……、ああなんと申し上げたらいいのでしょう。博愛主義を知るべきです」 「皆を平等に愛せと? それは笑ってしまうな」 魔王と呼ばれる少女には愛情というものが欠けていた。 それはマオが一人で何百年とこの城にいたのでそういったものと無縁だったからでもあり、もともと淡白な性格だったからかもしれない。 リコレッタはそれでも先日マオから友愛の情を貰い少々浮かれてはいたが、さきの戦争のこともありやはりマオは世間一般から見て非道な処を走ってしまっていると嘆いた。 「マオ様。ならばせめて恋をしてください」 「恋? 特定の異性に強くひかれること。また、切ないまでに深く思いを寄せること。と確か辞書にのっていたな」 「そうです! その恋です」 リコレッタはいつもよりもスムーズに話が進んでくれていることに喜んだ。 「異性……ってことは男か? 男にひっぱられればいいのだな」 「違います! 違いますってマオ様!!」 後半の部分を根こそぎ無視した独自の解釈にリコレッタはああやっぱりマオ様だ。とため息をついた。 「恋は落ちるものです。マオ様」 「落ちる? どこかからか落下するのか?」 「全然違います。相手を無償で愛する気持ち。ソレが恋です」 話が全然かみ合いそうにないマオにリコレッタはそれでも丁寧に説明していく。 「タダでか?……よくわからぬな。まぁ逆に無償で貰えるものならもらっておいてやっても良いが……」 「はぁ、あの少年でもいいからマオ様に恋愛させてもらえないでしょうか」 リコレッタの言うあの少年とはオークション会場からマオの逃亡を助けた人物であり、つい先日には偶然バンパイアの館で暴走するマオを止めたキーリのことだ。 「……キーリのことか。あやつも不思議な存在だな。まぁ他人とはえてして不思議なものだが……色々なことを我はもっと学ばなければならないことだけはわかったぞ」 どうやらマオなりにも先日の暴言のことを反省しているらしい。 「マオ様、どうか大切なものをもっとお作りになってください。このリコだけでなく世界には色々なものが溢れています。それに少し目を向けるだけでよいのです。それだけでどれだけの命がこの世界に必要とされているのかがきっとわかると思いますから」 「それは出来ん……大事なものを作りすぎると我は我でなくなる気がするのだ」 体をかかえ低い声で答えるマオは何も知らなさ過ぎるとリコレッタは思った。 「いいえ、それは成長というものですよ。マオ様。怖がることはありません。人もモンスターも日ごとに変わっていくものなのです。不変というものは世界には存在しません」 「成長……か。そうかでは、どうすればよいのだ?リコレッタ。我は成長しなければならないのだろう?」 紅い目がまっすぐにリコレッタを捕らえる。 「ええ。だから先ほども言いましたとおり恋をなさればよいのです」 「またそれか……。わかった。努力だけはしてみよう」 マオはそういうとリコレッタの頭を軽く撫でると出かけるぞと一言呟いた。 「マオ様、それでどこへ?」 「雪の舞う街、アーノルドへだ。魔女に会いに行く。知識といえば魔女が膨大に蓄えてるというだろう? そこで恋という知識をひっつかんでくる」 世界をのぞくことが出来る水晶玉を片手にマオは城外へ向けて歩き出した。 「マオ様、恋とは知識だけではどうにもならないものなのです……でも……」 「なんだ?リコレッタ」 「いえ、とりあえず知識だけでもえてきて下さい」 リコレッタはどうやら主なりに前に進もうとしていることに安心して、マオの移動手段となるために巨大な竜にと変身した。 「さぁ、お乗り下さい。我が主、マオ様」 マオは防寒服を着込み、うむと頷くと北に向かうぞと一言つげ、リコレッタの背に飛び乗った。 |