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「……おい、マスター? どこへ向かってるんだよ? ちゃんと目的地は決まってるんだろうな?」 金色の髪に蒼い目をした旅装束の少年、いや少年と言い切るにはその姿は青年へと差し掛かっている途中であるキーリは蒼い小さな竜ヴァイオレットを連れて森の奥深くを目指して旅をしていた。 「ヴァイオレット。急いでいるんだから静かにしろ」 小さな竜の問いを跳ね除け、少年は森を進む。 「そんなに急いだって街なんか見えやしないよ? どうせこの先もずっと森っぽいし? こんな処に何の用で向かってるのさ?」 二度目の問いにようやく歩調をやや緩やかにしたキーリはヴァイオレットに答えた。 「無料の移動転送ポイントがあるって聞いたんだ。ここから雪の街アーノルドへと飛ばしてもらうのさ。ただし、一日一回らしいから時間に遅れると丸一日潰さないとだから急いでるんだ」 「そんな大事なこととっとと言えよ!! 何の為に俺がいると思ってるんだ?」 ヴァイオレットは怒りを込めて主人に言う。 「俺が巨大化してマスターを背に乗せて向かえば一発で着くはずだろ?」 「!!」 目をまん丸に見開いてキーリはそれまでやや小走りだった足をストップさせた。 「そうか! そういう手があったか」 「マスターの馬鹿! ほら、とっとと乗った」 そういうとヴァイオレットはポンっという煙とともに巨大な体に変身した。 「サンキュ。ヴァイオレット。お前は本当に役立つな」 鱗を撫でてから、キーリは巨大化した竜ヴァイオレットに乗り込むと行くぞと掛け声をかけた。 「はいよ!」 ヴァイオレットはその巨体を一対の翼を使って空に舞い上がった。 「で、転送ポイントってどこだよ? マスター」 「あ。あそこじゃないかな? あの広場になっているところ。魔方陣が描いてある」 空中で風の抵抗をもろともしないヴァイオレットだったが、反対にキーリは風で吹き飛ばされないように必死でしがみついていた。 「よし、あそこに降りるぞ」 「おう。任せた!」 ヴァイオレットは主を落とさないようになるべく体を傾けないように慎重に魔方陣へと降りた。 空からの巨大な異物に魔方陣の管理者は大きな口をあんぐりと開けていたが、やがて仕事だと思いなおしたのかキーリが地に足を着くまでには凛とした表情に戻っていた。 「アーノルドへの移動ですね?」 係りの人らしき人のその問いにキーリはにこやかな表情で答える。 「はい。お願いします。」 「ふむ、他に移転希望者もいなさそうなことだし早速君をアーノルドへ送るよ。準備はいいかい?」 「ええ。構いません」 「じゃ、魔方陣の真ん中に立っていて。……そうそう、それじゃいくからね」 ひゅんっと係りの人の声が聞こえたのを最期に、一瞬の閃光の後、景色は森林から雪国へと視界が変わった。 見渡す限りの白。 気温は氷点下を越え、吐く息も白く湯気が立つ。 樹氷の花が数多く咲くそこは雪国アーノルド。 街の入り口付近へと飛ばされたキーリはその光景に体をブルリと震わせ、マントを前で擦り合わせるとその場にしゃがみこんだ。 「さ……寒いっ!!」 「マスター、事前にココに来るって分ってるんだから厚着してこれば良かったのに。馬鹿だなぁ」 「なんでヴァイは寒くないのかよ?」 「ああ、竜族は自己体温調節機能があるからな。しかも皮も厚いし、もともとブルードラゴンは雪国にいるものなんだよ? おかげで寒さに慣れているんだ」 「なんか、せこい!! せめてその焔であっためてくれよ?」 キーリはヴァイオレットの焔で少しはあったかくなるかと思って願ったがヴァイオレットは人が温まるくらいの焔を出すのは調整が難しいんだと言って断った。 「うぅ。わかったよ。街であったかい服を仕入れてくるよ」 そういって目指すは服屋とどしどしと街を進んでいった。 こんなところに薄着でいるキーリは当然目立った。 しかもタイミングの悪いことにその姿は街のゴロツキ達によって発見されたのだった。 すれ違いざまゴロツキ達の足が差し出された。 「わっ」 それに見事につまずいてキーリはすっころんだ。 「おっと。痛ッ!! なんてことをしやがるんだ?」 わざとぶつけたらしい男達がキーリを取り囲んだ。 「あーあ、こりゃー足の骨が折れてるなぁ。損害賠償してもらわねぇと……」 「なっ。なんだよ。そんなやわなわけないだろう? ね? マスター」 キーリは黙ってことの成り行きを見守っていたが。 「俺、忙しいんだよね。ゴロツキさん達の相手なんかしてられないっつーの」 そういうとヴァイオレットを肩に乗せ、再び服屋を探して歩き出した。 「おいおい、ちょっと兄さん。そりゃーないぜ?」 ゴロツキのうちの一人がキーリの前をふさぐ。 「……なんですか?」 キーリは多少切れそうになりながら言った。 「慰謝料として、有り金全部置いてってもらおうか? 兄さん」 結局お金が目的だったらしいと分ったキーリははっと軽く嘲笑すると帯剣していた刃を取り出した。 「お。なんだ? やる気かよ? 兄さん。この人数相手にそりゃーないぜ?」 「邪魔だ。どけ!」 低い声で呟くキーリはヴァイオレットから見てああこれは完璧切れちゃったなぁとのほほんと思っていた。 「は。やれるものならやってみろよ」 ゴロツキ達もそれぞれの獲物、剣やらナイフやらを取り出すとキーリに向かって襲撃した。 戦劇はその一瞬一瞬が幻のようだった。 剣に反射する光が綺麗だなぁとヴァイオレットは思った。ゴロツキ達は勢いよくキーリに向かっていく。キーリはその場で顔を俯きがちに眼光だけを前にするとに右足を一歩後ろに下げゴロツキ達と対峙した。 真っ白な軌跡が複雑な模様を描く。 「抜刀剣術、――白動」 やられたチンピラの一人は何が起きたのか全く分かっていなかっただろう。 それほど早い動きでキーリは動いた。 残されたのはパサッと服が胸部から股まで一直線に裂けたゴロツキただ一人だ。 「なっ……」 慌てて局所を隠す男にキーリは後頭部に蹴りを入れることで片付けた。 「てめぇ!!」 続いてやってきた男には剣を突き刺すように剣を向ける。 その不規則な動きに男はやがて翻弄され、その隙をつきゴスっと鈍い音を立てて彼の腹にキーリの拳がのめりこんだ。 さらに不意に襲ってきた後ろにいた男には強烈な回し蹴りを食らわせ、その場にいたもう一人の男と頭と頭とををお見合いさせた。 どんどん気絶、または倒されていく男たちに残されたゴロツキ達は怯えたらしく「おぼえてろよ!」とどこかの悪役のように言うと逃げていった。 |