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「ま。こんなもんかな」 パンパンと手を叩き剣を鞘に収めるとキーリは背伸びをした。 「あー久々に体動かしたー」 「マスター。さ。行くぜ」 「了解。……にしてもさ。ヴァイ。少しぐらい手伝ってくれたっていいじゃないか」 「嫌だ。マスターが買った喧嘩だろ?」 「いや、買ったっていうか……勝手に売りつけられたっていうか?」 「あいまいだなぁ〜」 「まぁね」 「……どっちでもいいけど。服屋さっき通り過ぎたぞ?」 「それを早く言えーー!!」 キーリは半べそになりながらも何とか服屋を見つけると暖かい服を買って着用した。 「ふぃー。これだけでも随分違うな。これでようやく雪国にきたぞーって感じ?」 服の端がふさふさした茶色の毛のついたフードの黒のロングコートを着こみキーリは満足げに呟いた。 「そうか」 張り切るキーリにヴァイオレットは平坦に返事した。 「さて。そんじゃーここまで来た目的を果たそうかな」 にこにこ顔で言うキーリは一瞬黒い笑みを浮かべる。 「目的? マスター今回はちゃんと目標あったんだね」 初めて聞いた……とヴァイオレットはやっとキーリの行動に合点が言ったようだった。 「その為には、そう! まずは魔女に会わなくっちゃ」 「魔女? ……おい、キーリ。修行しに来たんじゃないのか? それとも何か? 魔女が修行つけてくれるってのか?」 「はっ。ヴァイこそ何の冗談だぃ? 俺は!」 「俺は?」 真剣な顔をするキーリにヴァイオレットは何だ何だと興味しんしんである。 そして、たっぷり3秒キーリは止めて言い放った。 「魔女にほれ薬を作ってもらうんだ!!」 「はぁ?」 それと修行が何の関連性が……?とヴァイオレットは思ったが口には出さず、ああこれがやっぱり主人だよなと変に納得してしまった。 「だーかーら、今度マオに会ったときにでもほれ薬を仕込んで、そして! 飲ませる!! んで、後は……ムフフフフ……」 怪しい笑いを浮かべるキーリにヴァイオレットは若干引き気味だ。 しかし、残りうる気力を持ってヴァイオレットは叫んだ。 「おまえは阿呆かぁああ!!」 どこからか出したハリセンでヴァイオレットはキーリの後頭部をその体に見合わない力で容赦なく叩く。 バシィィンと紙の束がぶつかる音がしてキーリは倒れた。 「いたたたた……いきなりはひどくない? ヴァイオレット」 「復活はやっ!!」 倒れてから1秒足らずで立ち上がったキーリに対し、ヴァイオレットは化け物かと強く思った。 竜の力は強い。成竜になると空から着地するだけで30Mの穴が開いたというつわものまでいるほどだ。 それをキーリは何でもないかのようにしている。 一体、キーリはどんなに頑丈なのだろうか?そもそも一般的な人間と体の作りが違うのか?ヴァイオレットはふっと頭を振ると考えるのをやめた。 こんなことを思っていてもどうしようもないと気づいたからだ。 キーリはキーリなのだから……と。 「そもそもあの女にまた会えるかどうかすらわからねぇじゃねぇか!」 ヴァイオレットは冷静につっこんだ。ちなみにあの女とはマオのことだ。 「……それは考えてなかったな。うむ。ま、なんとかなるだろ。それより早くしないと夕方になっちゃうね。急ご?」 キーリはヴァイオレットを頭に乗せ歩きだす。 「魔女の居場所とやらは検討がついているのか?」 「ああ。さっきの服屋のおばさんからちゃーんと聞いて地図まで貰ってきてるよ。何でも有名な人らしいから家にも行けばすぐ分かるってさ」 「ついでにマスターの修行の仕方も考案してもらっとこう」 ふとヴァイオレットが小声で言った言葉はキーリには届くことなく消えた。 魔女とは膨大なありとあらゆる知識、魔術、薬学などのプロフェッショナルだ。 その中には戦法やら行政に関わることやらも含まれているらしい。 「フフ……覚悟しろよ? マスター」 当然王宮の騎士並の訓練の仕方も魔女ならば知っていることだろう。 それに期待してヴァイオレットはキーリと共に魔女探しを手伝った。 「ここか」 たどり着いたのは何の変哲もない一軒のお店だった。 特にボロくもなく、別に貧相でもない。その軒先には薬屋とだけ書かれた小さな看板が立てかけられているだけだった。 その扉にキーリはコンコンと軽くノックする。 「はぁい!」 聞こえてきたのは意外にも若そうな娘の声で…… しわがれた老婆を想像していたキーリは少々面くらった。 ガチャリと中から扉が開かれるとまだ12・3歳ほどの可憐な少女が立っていた。 「いらっしゃいませ。ようこそ、私の店へ」 黄緑の髪に緑の穏やかそうな瞳をした少女はにっこりと笑ってキーリ達を迎え出る。 「ここは魔女の店だと聞いてやってきたんだが、間違いはないな?」 確認するようにキーリは問うたが少女は相変わらずにこにこ笑顔で「はい。そうです」と答えた。 「魔女って、なんの薬でも作れるって聞いたんだけれど本当?」 「どのようなものをお求めなんですか?」 「あ。え……と」 小さな少女に何故か言うのをためらってしまったキーリを見てヴァイオレットはしょうがないなぁと嘆息した。 「マスターは、ほれ薬を作ってもらいたいんだってさ」 ヴァイオレットが言ったとたん一瞬怪訝な顔をした魔女だったが、 「はい。分かりました。ほれ薬ですね」 と言うと何やら書類にメモしだした。 「それで相手は男ですか? 女ですか?」 「!! なっ、女に決まってるだろ!」 いきなりの質問にキーリは噴出してしまった。 「そうですか。最近同姓同士の薬も開発中でして、念のためにお聞きした次第です。ご気分を悪くされたらごめんなさい」 魔女は相変わらずの笑顔の仮面をつけて接客した。 「ご要望の薬は少しお時間がかかりますので、また明日の夕方ごろにでもいらしてください」 ニコリと相変わらずの笑顔を貼り付けて魔女は用が済んだとばかりにキーリ達を外へと追いやった。 「じゃ、お願いします」 とキーリはその場を立ち去った。 が、ヴァイオレットはその場に残った。 「あら?珍しい……ブルードラゴンですね」 「そうだ。よく知ってるな」 「流石に知識だけはある魔女ですから」 フフフと笑う魔女はその見かけからは想像出来ないくらいの妖艶な笑みを浮かべてヴァイオレットに向き合った。 「歳も外見も誤魔化しているだろう? お前」 「ええ。そうでもしないと外は危険ですから。こんな幼い私が営業している店と聞くと大抵は信用してもらえなかったりはしますが、彼は見かけなど気にしない立派な人だったようですね」 「あぁ。マスターは馬鹿だから。魔女かどうかの口頭の確認だけしかしなかっただろう? 人を信じるってことに関しちゃマスターはあぶなっかし過ぎるんだけれどな」 「だから、あなたが私の調査をしているわけですか?」 「いや、違うな。マスターの信じたものなんだから、それに従うまでさ。今回はマスターとは別件で頼みたいことがあってだな」 「あら? なんでしょうか?」 「マスターの剣術の上達方法を教えてほしい」 「剣術ですか? それならば誰か強い方に弟子入りでもしてみたらいかがでしょう?」 「それが、マスターはあくまで一人で強くなりたいって頑固なんだよな」 そう、それがヴァイオレットの頭を一番悩ませていることだった。 「ある程度は強いと思うんだけど、これから先マスターの技量よりも上の相手が現れたらマスターはやられてしまうんだと思うんだ。なにしろあの馬鹿は魔王を退治するって言って聞かないし……」 「魔王退治ですか……。それは無謀だと思いますよ。私でも簡単にひねられてしまう相手ですからねぇ」 「そこをなんとか頼むよ。魔女。キーリは無茶を押し通しても決めたことはやろうって奴だから……」 「はぁ、仕方ないですね。それならば私が相手になりましょう。少しは強くはなれるはずです。ただし一回だけですよ?」 「!! ありがと。流石は魔女。じゃ、頼んだぜ!」 ヴァイオレットはそういい残すとキーリの後を追った。 どうせ行き先は宿屋なのだ。 しかもこの街には宿屋は一軒しかないことは服屋を探していたときに調べ済みだ。 ヴァイオレットが立ち去った後、魔女は一人嘆息した。 「魔王を退治する……か。なんて無茶な願いなんでしょう。まぁその分料金を釣り上げればいい話ですわね」 暗い笑みを残し魔女はキーリの為に本をめくり、調合を始めた。 |