雪の舞う街、アーノルド。
そこには数々の武勲や功績を残した偉大なる魔女が住むという。
その魔女は歳若い少女であるとも妖艶な美女であるともしわくちゃなお婆さんであるとも言われておりその真相はさだかではない。
ただ、魔女には代々伝えられるという名前と膨大な知識があり、人々が困ったときなどにほんの少しの知識と大量の金貨とを等価交換していくのだと言う。

「ああ。マオ様。いいものしてますねぇ。マフラーってふわふわしててすきです!」
街の入り口に着くなり、リコレッタは小さな竜に戻るとさっそく主が巻いていたマフラーに文字通り全身を突っ込み、マオの首の体温とほかほかしたマフラー満足げにうなずいた。
「リコレッタ。鱗が痛い」
「我慢してください。それくらい。さぁ行きますよ。ちゃんと水晶球は持ってきましたからね」
マオの城に伝わる水晶球は探索にぴったりの非常に便利な品物で、遠くでも近くでもターゲットとされるものをでも映すことができるという大変貴重な水晶球である。
ただし膨大な魔力を持つものしか使うことが出来ないらしい。
リコレッタもかつてマオとはぐれた為、水晶球を使おうとしたが利用できなかったのでかなり大量の魔力が必要なのだろう。
「さぁ、マオ様。魔女を探してください」
「そうだな。……ちょっと待ってろ」
軽くそう言うとマオは水晶球に向けて意識を集中しだした。
「リコレッタ、魔女の名前は?」
「えーっと確かアーノルドに住む魔女はノアという名前の女性だったと思いますが」
「……ノアか」
魔力を込めた声でそう呟くとマオの持っていた水晶球は淡く光り、ある家を映し出した。
「ここか?」
「なんだか金いっぱい取るって割には質素な家ですねぇ。マオ様縮小して下さい」
「ああ……!!」

その時、雪の降る街の中を乾いた発砲音が響き渡った。

水晶球の中を覗き込むようにしていた二人はふと聞こえた意外に近そうな銃声に驚いた。
リコレッタとマオは顔を見合わせ、その音がした方にかけて行く。
そうしている間にもパン、パンっと再びの発砲音。
つづいてガチャガチャという金属同士、恐らく銃だろう……が擦れ合う音がする。

「おいっ、そこで何をしているのだ?」
マオ達は遠目だが幼い少女に掴みかかる壮年の男性に声をかけてみた。
「なんだぁ? 旅人か。ならあんたらにゃー関係ないな。俺はこの街から魔女を追い出しさえできればそれでいいんだからな」
「急にそんなっ、こっ、困ります〜! そうすると今まで懇意にしてきたお客さん達と連絡が取れなくなっちゃう。それに作りかけの薬もあるんです!」
悲鳴をあげながら抗議する幼い少女は黄緑という珍しい髪色をしておりその瞳も新緑の色だ。来ているローブは元は白かったのだろうが、黒く薄汚れていて何日も洗っていないのだろう独特の匂いが漂ってきた。
「マオ様。どうやらこの子供が魔女みたいですね」
リコレッタは小声でマオに忠言する。
「……そうか。魔女よ。我は貴様に用があって来た」
マオは未だ争っている魔女ことノアに対して声をかけた。

「お客様……? おっ、お客様なんですかぁ!!」
そのとたん、勢いをつけて今までつかまっていた壮年の男性に肘鉄を食らわせ男性の手の届く距離から離れるとノアはにっこりとマオ達に笑いかけた。
「いらっしゃいませ。アーノルドの魔女、ノアの店へ。それで御用はなんですか?」
急に商売顔に変貌したノアにマオ達はただぽかんと見つめてしまった。

「魔女には膨大な知識があるというのは本当なのか?」
「ええ。ありますよー。ですから安心して御用向きをお伝えください」
自信満々の緑の瞳にマオはほおっと感心して頼みを口にした。

「我の望みは難しいものらしいぞ?」
「難問ですか!? それは腕がなります!! 私に出来ることなら精一杯努めさせて頂きます。それでどういったものなんですか?」
その気合の入り方にマオはさすが魔女!と感心したのでさっそく用件を述べてみた。
「それは……我に恋というものを教えて貰いたいのだ」

「……ホレ薬のご注文ですね。今ちょうど取り掛かっているところなので直ぐ出来ますよ? 効果は朝飲んで夕方には切れるのでその間に既成事実を作るなりなんなりしないといけませんが、これはオススメです」
 魔女は何を勘違いしたのか、薬を薦めてきた。
「違うっていってるでしょ。魔女。マオ様は恋というものがどんなものかが分らないから教えて欲しいって貴方の元へ着たんですよ」
リコレッタは訂正を口にするとノアは驚いた顔をして顔を俯かせた。
「どうした? 魔女なら簡単なことだろう? 恋に関する知識をくれ」
マオはなんでもないことのように注文する。
「恋。ですか? ああ、そんなものはうちでは取り扱ってませんね。占い師にでも聞いてくればいいんじゃないですか?」
一気に態度を豹変させ、ノアはけっけっと客払いをする。
「美貌を変化させる薬まで作れる魔女ならば恋など朝飯前でしょう? どうかマオ様の恋路の相談に乗ってやってください」
リコレッタは頭を下げて頼み込んだ。
「ざ……残念ね。魔女は恋をしないものなのよ。……そこまで言うなら教えてあげてもいいけど」
冷たい目で言うノアの周りの空気は何故か氷点下以下のような冷たさを醸し出していた。
「本当か!?」
そんなノアに気づくことなくマオはその言葉にぱあっと顔を上げた。
「恋とは、男と女が出会い、やがてどちらかが又はその両方が気が狂い、破滅へと導くものですわ。私達魔女は気を許した男性とキスまではしますが、それ以上のことは致しません。一夜を共にするとそれまで溜め込んでいた魔力や膨大な知識が抜け落ちてしまうからです。また男性に恋焦がれる魔女が現れるといっせいにその他の魔女はその魔女を死に追いやろうとします。危険な魔術を恋焦がれるあまりしてしまったり、男に操られたりするのを防止するためです。
このように魔女にとって恋は禁忌なのです」
息つくことなくスラリと述べられたその言葉にマオはほほうと自分の知識の辞書の中に一言付け加えた。
「恋は禁忌」
という覚えてはいけない一言を。
「魔女にとっての恋とはこんなものですが、次は一般的な人間同士の恋のことをお話致しましょう」
「ええ。よろしく頼みます。マオ様! ここからが大事なところですよ?」
リコレッタが強く勧めるのでマオはああっと頷いて続きを待った。
「恋とは一般的に、その相手を思うと頭の中がぼおっとなったり、何故か一日中相手のことを考えていたり、ふとした時にその相手しか見えないぐらい盲目的になってしまうことをいいます。何気ない相手のしぐさに胸が締め付けられたり、触りたいと思ったら恋の始まりと言ってもよいでしょう」
「そうか、で。その相手を食べたいと強く願うようになったら?」
マオは挙手して質問をした。
「それも恋の前兆ですね」
さらりとノアによってマオの答えは提示され、ふむっとマオは何やら考えこむとふっとリコレッタを見つめた。
「? マオ様」

「そうか、ならば我はきっとリコレッタに恋をしていると思うぞ!」

 どどーんと言い切ったマオにリコレッタは瞠目した。
「な……何を言い出すんですか? マオ様! 男女の恋愛で……ですよ。私とマオ様は同姓同士……」
「いや、同姓同士でもありですわよ。恋愛って」
付け足す魔女にリコレッタは余計な一言を……と少々怒った。
「ならば問題は無いな。リコレッタ。我のツガイになれ」
「マオ様、申し訳ありませんがマオ様とは主君としての情はあってもそっちの情は全くありませんので……」
きっぱりと言い切るリコレッタにマオは残念そうな顔をしてはぁっとため息をついた。
「さっそくふられたぞ。まぁいいか恋は禁忌らしいしな」
マオは自分の解釈をそのまま信じ込んでいるらしくリコレッタはそんな主をみて落ち込んだ。

「おいっ!魔女、さっきはよくもやってくれたな!」
何時の間にか魔女ノアにのされてしまった男が復活し、今度は5人ほどの男を連れてやってきていた。
「またやられに来たの? こりないわね?」
呆れ顔でノアは男達からまずは距離をとった。
「今度は簡単にはやられない……ぞ?」
しゅたんっとその言葉は途切れ、代わりに近くにあった木にビィインと矢の突き刺さる音が聞こえた。
「さぁ、次々行くわよ? 何人でこようが魔女に喧嘩を売るなんて覚悟してきているんでしょうね?」
その言葉に矢を操っているのはノアらしいということが辺りに知れ渡った。
「へー魔女って、そんなことも出来るんですね」
その一言に、呆然と見上げるリコレッタ達に男達は気づくとそのうちの一人が素早い動きでマオに持っていた剣で首筋に刃を当て脅した。
「マオ様!」
意外と早いその動きに当人であるマオはほほうといった感じで感心して見ていたが、辺りには悲鳴が飛び交った。
「マオ様に何をなさるんです!!」
リコレッタはといえば、怒りで我を失いかけていた。
「そのお方を誰だと思っているんですか?」
リコレッタは最大限の威嚇として蒼白い炎を辺りに吐く。
「はっ。誰であろうと関係ねぇ! その女さえ黙っていなくならせてくれりゃー、俺達は満足だからな」
男達はどうだっと言うとマオと剣の距離を限りなく0に縮めた。
「そうですか。
でもそのお方は魔の森に住む魔王様ですわよ。それなりのご覚悟があってソレをなさっているんですよね?」

「なっ……!! ……ははっ、魔王ときたか! ありえねぇ、こんな綺麗な嬢ちゃんが……魔王?」
マオは軽蔑の眼差しで全身を見られていることにきづいたがあえてソレを綺麗に無視しリコレッターと陽気な声をかける。

「……街ごとつぶしていいか?」
そう問うた瞬間に高速移動したのかマオは何時の間にか男の拘束から逃れ全員を見下ろせる除雪作業で出来た雪の小さな山に移動していた。
その手には赤黒い光が明滅しており独特の魔の威圧感を兼ね備えていた。
「駄目です。マオ様! 人を殺してはいけません」
「そうか。ならばちょこっと驚かすぐらいにしておこうか?」
そういうとマオは赤黒い光を半分にすると片方を消滅させ、そしてもう片方を男達にむけて放った。
「マオ様!!」
ものすごい轟音とともに雪煙がそこら中を支配した。
――球は男達には当らずにそのわずか1mほど先に当ったのだった。
「ひ……ひぃ。ま……魔王だ!! 確かに魔王だぁ!! た……助けてくれ!!」
男達は腰を抜かし、魔女も呆然とその光景を見ていたようだった。
「さぁ。魔女よ?もっと具体的にアドバイスを我にくれ」
マオのその一言にはっとしたノアは、若干びくっとしこの先に自分の家があるからとマオ達を誘った。


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