「他にホレ薬を注文された方がいるの。だからそれを貴方も使ってみるといいわ。何事も実践が一番ですもの。それにしても、貴方が噂に聞く魔王と呼ばれているものなの?」
ああ、眩暈がする……と魔女は家に着く前そう一言呟いた。
「使う? 誰かに試せというんですか?」
リコレッタはもしや自分が……などと薄ら寒いものを感じていたが次の一言にほっと安心した。
「違う違う。恋愛をしたいんでしょ?だったら自分自身が飲んでみて、目に着いた人異性をを好きになってみるって手もあるってことよ?」
「そうか。そういう手がありましたね。でも、相手役は慎重に選ばないとですね」
「そんなので簡単に恋愛が出来るのか? 便利なものだな。魔女とは」
「あくまで一時的に……ですわ。本物の恋愛とは程遠い偽者の恋です。ほんの少し、最初に見た異性を好きになってしまうというだけです。」
そう言い切るノアにマオはそうかと呟いて扉を開けた。
店とくっついている家は最低限の生活ができるくらいの小さな部屋だった。
「はい。これがホレ薬よ?」
マオに手渡されたそのフラスコの中には淡い紫色をした液体が入っていた。
「本来なら蒸発して粉にするのだけど、貴方の場合はそれで十分ね? ……はぁ、それにしても魔王が恋焦がれるなんて世界が可笑しくならなければいいのだけれど……」
「世界とは不変のものだそうだよ? なぁリコレッタ」
リコレッタは唐突にふられた話題にはいと嬉しそうに答えた。
「これも我の成長の為なのだ」
フフフと笑ってマオは薬を一気飲みした。
「マオ様!! お待ち下さい! 相手役を見つけてからでないと……って、ああっ、もう飲んでしまったのですね」
リコレッタはその事実に愕然とし、マオに素早く目を閉じるように言う。
「なんでだ? リコレッタ」
素直に目を閉じたマオだがリコレッタを手探りで探していると何かにつまづいて転んでしまった。
「リコレッタどこだ?……わっ。……ん?」
パチッパチと目をしばたかせて見たものはリコレッタだった。
「ま。……マオ様?」
目があったという事実に気がついたリコレッタは瞬時に寒気が走った。

「……何も変化などないが?」
ぱちくりと瞬きを繰り返すマオにノアは先に言ってたでしょ?とあきれるような声がかかった。
「この薬は異性じゃないと効かないようになっているの。安心した?」
その一言にマオとリコレッタは盛大にため息をついた。
「よかった。マオ様が無事で……さぁ、では私めが相手役を探してまいります」
リコレッタは入ってきた扉を一生懸命に開けるとそこには一人の少年が立っていた。
「マオ様! 出てきちゃ駄目っ!!」
「……なんだ? リコレッタ」
リコレッタの止めるのも聞かず、マオは目を合わせてしまった。

「あ。クソ竜とその主人!?」
「マオじゃないか? どうしてここに?」
マオが見てしまった人物……それは、薬を取りに来たキーリとその肩に乗ったヴァイオレットだった。

「お前らこそ……! あ……なんだ?」
ふらりとマオの体が地に崩れ落ちた。
「マオ! どうしたんだ?」
慌てて駆け寄ったキーリ達にマオはびくっと反応する。
「リコレッタ。なんだかめまいがするぞ」
マオはがくりと膝をつくと自分の手が汗をかいていることに気がついた。
それに急に動悸までしてきて風邪のような症状が出始めてきてしまった。
「ま……マオ様。とりあえず落ち着きましょう。深呼吸です。……あんた達! なんてことをしてくれたのよ!! とりあえずマオ様から離れなさい!!」
すぅーはぁーと深呼吸をするマオにリコレッタはこれからどうしたらいいのかと途方にくれてしまった。
キーリはリコレッタの言葉に従い、一旦離れようとしたがマオがキーリの服を掴んでストップをかける。
「マオ様?」
「……あぁ、そこのブルードラゴンの血肉が喰いたい。その喉をナイフとフォークでぶっさして食べたらどんなに美味しいことだろう」
じゅるり……とマオはあふれ出るよだれを拭いながらヴァイオレットを熱の入ったような瞳で見つめる。
「なっ!! なんだっていうんだよ! おいっ! リコレッタ! お前の主人変だぞ!」
「マオ様! まさか……」
「あぁ、透き通ったいい声をしておるな。……それならば三日三晩木に吊るして鞭で全身を打ってその悲鳴を存分に聞きたいものだ……」
「おいおい、冗談はよしてくれよ」
パタパタと宙に飛び上がりヴァイオレットはマオに対して警戒態勢を敷いた。
「おい、どこへ行く? 貴様、我の目の届かない所へ行くのを禁ずる!!」
マオは王者たる堂々とした態度でマオから離れて飛んでいたヴァイオレットのしっぽをあっという間につかむとその小さな体をぎゅーっと握りこんだ。
「ぐぇ!! ちょ……待て!」
「あぁ、よい鱗をしておるな。ゴツゴツした表面だが一枚一枚が蒼く輝いていて綺麗だな」
「な……なんだっていうんだ?!」
至近距離でじっと真剣に観察され、ヴァイオレットはたじたじである。
しかも全力を出して握りこまれた手から抜け出そうとしているが、それよりもより強い力で押し返され身動きすら出来ない状況だ。

「……仮にも竜の俺が全力をもってしても抜け出せないなんて……なんて馬鹿力なんだよっ!!」
「フフ。それはマオ様ですから……ね」
ヴァイオレットにマオを褒められたと思ったリコレッタは珍しくヴァイオレットににっこりと笑いかけるとボンっとヴァイオレットの頬が赤くなった。
「なんだっていうんだよ」
一人かやの外に放り出されたキーリはそれでもマオの近くにいられるだけでも幸せだなぁとほのぼのと思っていた。


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