「ああ……マオがこんな傍に……。でも、どうして……」
キーリは幸せと悲しみの絶調の中にいた。
「フハハハ。なかなかどうしてかわゆいものだな。な?リコレッタ」
マオはヴァイオレットを思いっきりぎゅーっと胸の前で抱きしめている。
「ぐぇ!!……い……いい加減に!!」
芯から吐き出しそうな声でえずいたのはいつもはキーリの傍にいる小竜ヴァイオレットだ。
「……ま……マオ様!!」
リコレッタはその光景に未だにはっきりと言葉が出せずにいる。
「どうして、惚れたのがヴァイなんだよーー!」
キーリの叫びはむなしく辺りに響き渡る。

「それは最初に見た異性がそのブルードラゴンだからですわ」
魔女ノアの説明でどうしてこうなってしまったのか?をキーリとヴァイオレットはノアから聞くと二人は唖然としてしまったのだった。
「う……うらやましい……」
キーリはポツリと呟くとマオ達を見つめていた。
「……マスター。変われるものなら変わってくれ」
なみだ目でキーリを見上げるヴァイオレットに、より興奮したマオがもっと抱きついてきたのは仕方がないだろう。
「うっま・そーー!」
「ぐぇええええ!!」
「きゅるぅるるるる〜」
ヴァイオレットの叫びとマオの腹の音がなったのは同時だった。
「ふむ。腹が減ったな」
マオはそれまで抱きしめていたヴァイオレットをぽいっと手放し腹をさすった。
それを見ていたリコレッタはノアに詰め寄り小言を吐き出した。
「魔女。マオ様は確かに異性を好きにはなりましたが、食物が好きなのと同列な好きじゃないですか!? 現に食事時になったら食物のほうを取りましたよ? 私は愛するということを学んでほしかったのに……どうしてくれるんですか?」
「効果は置いといて……確かに好きになったでしょう? 後は本人たち次第ですわ」
魔女はそっけなく言った。
「そもそもドラゴンとマオ様では私と同じように食料としか認識しないじゃないですか?」
「まぁそういうこともあるってことね……っち、後で改良を加えないと……」
そんなやり取りも知らずキーリは呑気だった。
「それじゃ、食事にでも行くか?」
やっと離れたヴァイオレットを頭にのせながらキーリは提案した。
「お。なかなか気がつくじゃないか」
「魔女さんもいかがです?」
キーリは自然に魔女を誘った。
「え……私ですか?」
「そうだ。食事を一緒にするのに名前をまだ、名乗っても聞いてもいなかったな。
俺の名前はキーリ。で、あそこにいるマオに抱きしめられていたこれがヴァイオレット。そんでマオにくっついてる竜がリコレッタさん。」
返答もしていないのに勝手に共に食事に行くことになっていることに魔女は大いに戸惑ったが、とりあえず自己紹介をされたので返答することにした。
「……ノアと申します。ここアーノルドで10代目の魔女です」
名乗ったからには名乗り返さなければ失礼だろうと魔女は自らを名乗った。
「お誘い嬉しいのですが、私はこの街では嫌われ者です。なので食事は……」
「ノア。さっそく食事に行くぞ!」
「え……私が街に行くとちょっと……不都合が……」
「んなもん知るか。我は腹が減った。行くぞ。ヴァイオレット!」
「もう、マオ様ったらちょっとは乙女らしくしてください!」
上機嫌なマオに乗せられてノアは無理やり街の食堂へと向かった。

「魔女だ」
「魔女よ」
「どうしてこんな所に魔女が……」
「帰れよ! 俺たちをどうする気だ!!」
「逃げなきゃ!」
「ひぃぃ! アーノルドの魔女がやってきた!」

 ノアの姿を見るなり、人々は駆け出し家に閉じこもった。

「? なんだ……? ……ノア?」
キーリは何が起こっているのか目をしばたかせて戸惑った。
「やはりこうなりましたか。ですから私など連れてこないほうがよいと言いましたのに」
予想していたのかノアは、はぁとため息を大きくついた。
「嫌われているのか? アーノルドの魔女よ。森での我と一緒だな。最も、我に会った者は地に膝をつき許しを願うのだが……」
ふふんと腕を組みにんまりとするマオを見たリコレッタは仕方がない方だなぁと思いながら一応注意した。
「マオ様なに得意げにしているんですか!! そのせいで森での知り合いが増えないんじゃないですか」
「ふん。知り合いなぞいらん。我は孤独が好きだからな」

「私は一人は耐えられません」
言い放ったのはノアで、まるで凍える世界を見ているような瞳をしていた。
「何故だ? 生き物は生まれるのも一人ならば、死ぬのも一人なはずだろう?」
マオはしっかりと言い放つと知識の泉とも呼べる魔女と対峙した。
「……薬の力を借りてなお、あなたはまだ、心の中は一人なのですね」
そういうと魔女は悲しげに呟いた。
「私は人のぬくもりを知ってしまった。わずかとはいえ人の情というものを身をもって感じてしまったのです。たとえ避けられようが人間の為にこの知識を使おうと思ったのはその為です。まぁ生活の為でもあるんですけどね」
魔女は一息にそう言い切った。
「あなたにもいるでしょう? 信頼する者が……」
「ああ。リコレッタは信頼している」
迷わず即答したマオにリコレッタは嬉しそうに目を細めた。
「……古くからこのアーノルドで私たち魔女は人々に囲まれて暮らしてきました。だから私にとってアーノルドの人々は家族も同じ、それが病に冒されていたら助けたいと思うでしょう? それが、アーノルドの魔女としての役目なのです」
「病を治したりしているのに、何故街人はこんな態度なんだ?」
キーリの的をえた返答にノアははぁっとため息をついた。

「人は自分とは異なるものは排除しようとします。それは自分とは同じでないから。弱いものも強いものも。皆、その対象になってしまうのです。昔はこうではなかったそうですけどね」
「それなら、分かるぞ」
マオはフンと顔を上げ、ノアをみつめた。
「人がモンスターを恐れる理由と同じだ。食べられてしまうからだろ?」
食物連鎖に直結した言い方にキーリは目を丸くした。
「そう、強いものも弱いものもいるだけで眩しくて人はその存在意義を奪われてしまうから……ですわ」
ノアはというとマオのそんな様子にもどうじることもなく解説した。

「それより、腹が減ったぞ! どうする? 街が駄目ならどこかの池で魚でもつってこようか?」
 マオの提案をノアは知り合いの店があるからと却下した。第一凍えそうなこの街の周辺に魚が取れる池など存在しない。街の人々は月に一度の行商人から食料を調達し、変わりに衣服を売るのだ。



←back/index/next→