カランカランとベルが鳴る。
そこは街の出入り口に近い一軒の飲み屋だった。

「……また来たのかい? うちには魔女に食事を出すことは出来ないよ」
「そこをなんとかお願いします」
そういって、ノアはチャリンした音を奏でる何かを店主に手渡すと店主は仕方ないなと呟くと水の入ったグラスを置いていく。
お世辞にもその動作は丁寧といったものではなく荒々しい様子だった。

「マオ、何にする? 今回は俺の奢りでいいよ」
「本当ですか?」
聞いたのはノアで、その瞳は輝かんばかりに光溢れている。
「……ぁあ、ノアさんもよかったら」
「ありがとうございます!! 今月貧窮してたんです! 食事も3日に一度だったこともあって……助かりました〜!」
そういうとノアはメニューを取り出し眺めはじめる。
「で、注文は?」
いつの間にか傍に来ていた店の店主らしき男にノアは目も合わさずにメニューを眺めていた。
「このメニューのここから……ここまでお願いします!!」
「え?」
それは全メニューの半分を指差してノアは言った。
「じゃ、我はとりあえず、全メニューだな」
そういったのはノアの真横に座るマオで……
「え?」
「俺はこのお子様ランチ!」
「私もお子様ランチで!!」
ちび竜達もきっちり自分の分を注文した。
「俺は……オムライス一つお願いします」
心の中で大粒の汗をだらだらかきながら、今回の会計はどれほどになるんだ……半ば放心状態のキーリは思った。
だいたい女性なんだから俺より食べる分は少なくなるんじゃないのか?とキーリは心の中で強く疑問に思った。
ただし、このキーリの見込みが甘かったと知るのは食事が出されてからだった。

「お待ち!!」
どんどん届く食事にマオは思ったとおり食べきれず……
な訳はなく、綺麗に完食していく。
おまけに……
「あ、これ旨いな! おっちゃん、これもう2皿追加頼む」
パクパクと口を動かしながらも注文するマオにキーリは唖然とした。
「私もハンバーグ追加でお願いします」
ノアも負けずとパクパク、ゴクゴクと片っ端から料理を食べつくしていった。
「……はぁ〜」
「ん? どうした? キーリ……腹いっぱいなのか? まだ半分も食べてないだろう?」
「あぁ、もう見ているだけで腹いっぱいというか……」
「じゃ、我が貰うぞ?」
「あぁ、好きにしてくれ」
パクパクとキーリのオムライスをも食べ始めるマオにヴァイオレットは目線だけ前に向けた。
あ、間接チューだ……でも、マスターには黙っとこう……うるさいしね……とか思っていたのは秘密の話だったりする。

「はぁー食べた、食べた」
「ご馳走様でした」
そう言う二人は背もたれにどんと寄りかかった。
「じゃ、お会計してくるよ」
泣きそうな声で言うのはキーリだ。
「これでしばらくは雀の涙で暮らさなきゃ」
「マスター、だからといって餌の量減らさないでくれよ?」
そこにはちゃっかりと注文するヴァイオレットの姿があった。

「おぃ、魔女がいるぞ!」
飲み屋の外へと出ると一気に街行く人々の視線がノアに向かって集中した。
「魔女ってだけで注目されて不便だねぇ〜……ぐぇ!!」
ふぁああと欠伸をしながらもふわふわ浮いているところをマオに再び握り締められてヴァイオレットは変な声が出た。
「さ。再び遊ぶぞ。まずは貴様の鱗でもはいで記念にネックレスでも作るか」
「やーめーてー。痛い痛い痛い!!」
ゴリゴリと体を毟られてヴァイオレットは早速白旗を出した。
「なんだ? ちっとも取れないぞ。うむ、ブルードラゴンの鱗ってば硬いんだなぁ」
ニコニコとヴァイオレットの反応を無視してマオはそのまま遊んでいた。
「おい、魔女! とっととこの街から出て行けよ!」
「そうだ! そうだ!!」
誰かの一声をはじめとして、同意する声があちこちから上がりだした。
「どうせ、魔女の薬しか治らないとかいって実は呪いをかけまわって金が入れば解いているんだろ?」
「魔女なんか、この街にはいらねぇんだよ」
「この魔女の顔をした詐欺師め!」
「悪女め!」
「金の亡者!! 我々からいくら金を巻き上げればすむんだ!!」
次々とあがる声に耐え切れなくなったのかノアは先に戻りますと一言呟くと店の方向を向いて駆け出していた。
「おい、ノア!」
その様子を見てキーリはノアの袖口をつかむ。
「落ち着けって!」
ノアは店の方向を見て一瞬けげんな顔をした。

「まさか……」
赤々と立ち上がる光と鼻をつく焦げ臭い異臭にノアはまさかと駆け出した。



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