「あ……嫌……そんな……」
煌々と燃え上がる炎にノアはその場で立ち崩れた。
ノアの店は赤い炎がそこかしこに燃え移り木製の家屋は薪のように白い煙と赤い炎を出して燃えていた。
「おい! ……誰か、水を持って来い!!」
マオはその惨状を見て通りを歩く街の人々に向かって言い放った。
キーリはノアに駆け寄りしっかりしろと意識を取り戻すように言った。
「そ……そうだったわ。まずは火を消し止めないと……」
そういうとノアは街の井戸へと向かった。

「残念ね。魔女。井戸は今掃除中で使えないの」
ノアの店の真向かいに住んでいた家族だった。
井戸をふさぐように他にもぞろぞろと人は集まり井戸をふさいでいった。
「さすがの魔女もこの人数に太刀打ち出来るはずはないわ」
フフフと笑う人々に、向かい合うノアに、マオは魔の気配を感じた。
「食事を終えたばかりだが。ふむ、”悲しい”も旨いな……」
人々の念を感じ取ったマオはさっそく魔を自身に取り込んだ。
どんどん辺りに溜まる人々の悪意に染まった魔にマオは満足げにあたりを見回した。
そんなマオを悲しそうに見守るリコレッタは俯き、小さな手を握り締めた。

「おぃ! そんな風にぼやっと立っている暇があったら手をかせ!!」
キーリはそんな様子も気にせず、井戸に向かって走っていった。
ヴァイオレットもキーリの後を追って行った。
そこに立ちはだかる街の人達。
炎は相変わらず燃え盛っている。
「なんだよ? あんたたち! 家が燃えているんだぞ? 手をかせよ!!」
キーリは激しい瞳で激を飛ばす。
「よそ者か? ……いいんだよ。あの家は。魔女の家なんだから。燃えてくれて俺も助かってるんだ」
「なんだと!! ノアだって。同じ街の人間じゃないか?」
「違うな。異分子だ。魔女は狩らねばならない!!」
この街の長老だろうか、偉そうにした歳のいった老人がかっと目を見開いて叫んだ。
「魔女はこの街にはいらん。昔からの慣わしで今まで目をつぶってやったが……わしの娘を妙な薬で薬漬けにしおってもう許せん!」
「あの薬は興奮を抑える為のものです。あれがないと彼女は気が狂ってしまいますわ」
ノアはすかさず説明するが。
「ふん。変な薬を飲み続けないほうがよいに決まっておる。大方、お前が魔術か何かしかけたんだろう?」
「私は!! ……そのようなことは一切いたしません」
ノアの必死の釈明にも応じず、街の人々はその場から動こうとはしなかった。
長老の命令がかかっていたからだ。
「あぁ、燃えてしまう。代々受け継いできた……私のこの街の店が……」
炎は店を包み込んでなお、燃え盛っている。
近隣への被害が出ないのは、ノアの店がそこだけ周囲の屋敷から離されて建っているからだ。
がっくりとひざをついたノアは泣いていた。
それでも人々は動こうともしない。

ついに切れたキーリが井戸をふさぐ人々に向かって剣をふりあげた。
「お。やる気か? 小僧。……この、魔女の仲間が!!」
街人の中の屈強そうな男がキーリの前に立ち向かった。
その手には大剣が握り締められている。
「どけ!!」
キーリは一喝すると男に……井戸に向かって真っ直ぐに走っていった。
「はっ!!」
ガキィインと剣と大剣がぶつかり合う。
「――っぅ!!」
力で押し負けたキーリは、とりあえず一旦距離を取ることにした。
が、相手はそんなキーリを楽勝と思ったのか追撃してきた。
「は!」
なんとかこの一撃も受け止めたキーリだったが、相手との力量の差をひしひしと感じ取り、これはやばいな……と焦りだした。
「守ってばっかじゃねぇか。そんならこっちから行くぞ」
男は再びキーリと剣と大剣を合わせた。
と同時に腹部に強烈な蹴りを放つ。
「がっ!!」
まともに入った蹴りにキーリは勢いを殺せず数メートルぶっ飛ばされた。
「はは。これでも俺は元王宮騎士でな。小僧をひねりつぶすぐらいなんともないさ」
ふはははと笑う男は弱った獲物にさらに大剣を突きたてようとキーリの前に立った。
「……っ、くそっ!!」
キーリはすぐに体制を建て直し、再び男に向かって切りかかっていった。
甲高い剣と剣が合わさる音があたりに響く。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
元王宮の騎士を相手にするなんて、無謀だったのか……?キーリは胸のうちで後悔する……が。
「「でも、ノアの心を守りたかったんだ!!」」
キィィンと再び剣と大剣がぶつかる。
「くそっ! なんで……」
だが力量は悲しいかな男のほうが明らかに上だった。
キーリの瞳に絶望がよぎる。
「なんだぁ? もう限界か〜? ちょっとは楽しませてくれよ」
男はキーリの必死の様子にも少しも動じることなくにやりとした笑みを浮かべると大剣をキーリの腹に向かって思いっきり投げた。
「ぐがぁ!!」
大剣はキーリの鳩尾をえぐるかのように当たりキーリをダウンさせた。
予想もしなかった攻撃方法にキーリはどうすることもなく意識を失った。
「ふん。弱いな……所詮ザコはザコだ」
男はキーリを見ずに燃え盛る炎を眺めながらやや興奮した面持ちで呟いた。
「……っ、キーリ!!」
思わず叫んでしまったマオは何故こんなに自分が焦ってしまっているのか分からなかった。
それをリコレッタに気づかれないようにそっと胸のうちから吐き出した。

「マオ様……キーリがやられてしまいましたよ!!」
リコレッタは恐る恐るといった感じでマオに報告した。
もちろんキーリの戦闘の様子をマオは見ていたのだが。
「あぁ、弱いものはやられる……。世界の理じゃないか」
たんたんと無表情を装うマオにリコレッタはかっと頬を染め上げた。
「「マオ様もノアを助けてあげてください!」」
「何故だ? 今更手を貸しても店はもう燃え尽きるぞ?」
そう、炎は今や店全体を包み込み木製の柱は次々と倒れていった。
「マオ様のわからずや! ノアは少しとはいえ縁があった者ですよ! それなのに放置するなんて……寂しすぎます!!」
リコレッタは泣いていた。
「リコ……。どうして泣く? 我はどうすればいいのだ?」
ここまで言っても分からないマオにリコレッタはますます悲しくなって泣き続けた。
「とにかく水で炎を消せ! 馬鹿女!! そしたらリコレッタも泣き止むぞ」
意外にも助けを出したのはマオにいじくられていたヴァイオレットだった。



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